研究課題
接着性レジンは、審美的にも優れ、歯質の侵襲を最小限に抑えた治療が可能なため、臨床で汎用されている。しかし、長期の耐久性を考えると、いまだ十分な材料とは言い難くその解決策が求められている。申請者は、これまでに世界に先駆けて行ってきた、化学分析手法とナノレベルでの界面分析手法を応用し、長期耐久性に優れた、歯質接着材料の開発のための基礎的な知見を得ることを目的として研究を行った。昨年の研究では、従来の歯科材料の劣化に関して評価を行った。ボンディング材の評価では、スコッチボンドユニバーサルボンド(3M ESPE)、クリアフィルユニバーサルボンド(クラレノリタケデンタル)を歯質との接着後、界面部分を幅1mmの厚みにスライスし、半分をすぐに透過電子顕微鏡観察用に包埋し、残りの半分をサーマルサイクル10万回の負荷かけた後に包埋した。直後のサンプルでは、いずれのボンディング材でもフィラーが一様にボンディング層中に観察されたのに対して、サーマルサイクル後のサンプルでは象牙質界面付近のフィラーが抜け落ちているのが観察された。そこで本年は、フィラーをシリカフィラー、表面処理を行ったシリカフィラー、ジルコニアフィラーとアルミナフィラーを添加した試作ボンディング剤を作製し、フィラーの劣化の評価も行った。5種類のコンポジットレジンを1mmの各の棒状の試験片を作製し、直後と水中に1年間保管したものの引っ張り強度を評価した。さらに象牙質にそれぞれ接着させた直後と水中1年保管のサンプルの界面の観察を行った。
2: おおむね順調に進展している
これまでに歯科レジン材料(ボンディング材、コンポジットレジン)の劣化について、とくにフィラーの劣化については研究されていない。本研究により、フィラーのとくにシランカップリング処理が劣化に影響していることが示唆された。コンポジットの劣化に関してはすでに学会発表を行い、現在論文投稿準備中である。ボンディング材の劣化については、現在引き続き行っている実験も含め、平成28年度中に学会発表を予定しており、その後論文投稿準備を行うことにしている。また、フィラーのシランカップリング材が劣化に影響していることがわかったため、現在、異なるフィラーの表面処理方法を行ったボンディング材の劣化について検討した。透過電子顕微鏡観察ではフィラーの種類によって、フィラーの脱落状態が異なることがわかった。機械的強度測定については現在その方法を検討している。
フィラーの種類、その表面処理の有無により、フィラーの耐久性に影響があることがわかった。一方で、フィラーを変化させるとボンディング剤の性質にもかなりの影響があり、機械的強度をどのように測定するのかについては、検討が必要である。すでに得られている結果については、国内外の学会で発表予定。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件)
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