研究課題
象牙芽細胞は感覚受容細胞として重要な役割を担い、TRPチャネルを介して象牙質に対する侵害刺激を受容することが知られている。グアヤコールは、歯髄鎮痛効果の高いことで知られる歯内療法薬であるが、象牙芽細胞に対する生理学的作用は十分に解明されていない。そこで、マウス由来象牙芽細胞系細胞(odontoblast lineage cells、OLCs)にグアヤコールを作用させた場合の細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変化についてfura-2を用いたカルシウムイメージングで解析した。細胞外Ca2+存在下でOLCsに0.9μMグアヤコールを投与すると[Ca2+]iが増加した。その増加は同一濃度のグアヤコールの連続投与によって脱感作した。細胞外Ca2+非存在下ではグアヤコール誘発性の[Ca2+]iの増加はみられなかった。グアヤコール誘発性の[Ca2+]iの増加は、TRPV1、TRPV2あるいはTRPV4チャネルのantagonistで抑制されなかったが、TRPV3チャネルのantagonistで抑制された。また、免疫組織学染色によってOLCsにTRPV3チャネルの発現が示された。従って、グアヤコールはOLCsの細胞外からCa2+を細胞内に流入させるが、それにはTRPV3チャネルの活性化が関連していることが示唆された。さらに、象牙質痛を発現させるような浸透圧刺激をOLCsに加えた時の[Ca2+]i変化に対するグアヤコールの影響を検討した。細胞外Ca2+存在下でOLCに低浸透圧刺激を加えると、[Ca2+]iが増加した。その後、低浸透圧刺激と0.9μMグアヤコールを同時投与しても低浸透圧刺激誘発性[Ca2+]i増加には変化がみられなかった。この結果から、グアヤコールは低浸透圧刺激による[Ca2+]i増加に対する抑制作用はないと考えられた。
3: やや遅れている
計測機器の不具合により実験できない期間があった。その修理に時間がかかり研究の遅延が生じた。現在、計測機器の修理は完了し、実験を再開している。申請研究では複数の試薬について実験し、作用機序を比較検討する予定であったが、まだグアヤコールの象牙芽細胞に対する影響についての検討段階である。
現在、歯内療法薬のうち鎮痛効果の高いグアヤコールについて象牙芽細胞に及ぼす影響を検討しているが、グアヤコールが象牙芽細胞のTRPV3チャネルを活性化し、細胞内Ca2+濃度を増加させることから、象牙芽細胞に対しては除痛ではなく刺激として作用している可能性がある。生体においては、象牙芽細胞付近に三叉神経節ニューロンが多数存在しており、薬剤の鎮痛作用の機序を解明するためには、象牙芽細胞だけでなく、三叉神経節ニューロンに対する薬剤の作用を検討する必要がある。そこで、その解明を優先し、象牙芽細胞に対する実験で確立した手技を用いてラットから急性単離して得られた三叉神経節ニューロンについて同様の実験を行う。ニューロンに対して薬剤が作用した場合には象牙芽細胞を培養している培養皿にニューロンを添加することで象牙芽細胞-歯髄分布三叉神経節ニューロン共培養系を作成する。象牙芽細胞とニューロンの両方にパッチクランプ法を応用する。象牙芽細胞に適用するパッチ電極には試薬を充填した細いプラスチックチューブを挿入し、象牙芽細胞にのみ試薬を作用させる(細胞内潅流法)。その時のニューロンの細胞膜電流を記録することで、象牙芽細胞とニューロン間のシグナル伝達の有無を確認する。また26年度に実験できなかったその他のフェノール系薬剤についても同様に実験し、比較検討する。
計測機器不具合の調整中、実験が中断し、試薬(antagonist、agonist、計測用fura-2)やプラスチック器具等の消耗品の使用が計画当初の予定よりも少なくなったため当該助成金が生じた。
26年度に実験できなかった他のフェノール系薬剤についての検討を、27年度に実施する予定である。申請研究に必要な試薬、消耗品費は遮光が必要なものも多く、酸化・変色が早いため、酸化防止ガスで封入された標準品を実験毎に調整する必要がある。加えてTRPチャネルのagonistやantagonist、カルシウムイメージングに用いる蛍光色素も高額かつ使用頻度が高い試薬である。そのため、26年度助成金の未使用分を27年度の実験に必要な試薬の購入費として使用したいと考えている。
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Pflügers Archiv European Journal of Physiology
巻: 467 ページ: 843-63
10.1007/s00424-014-1551-x