研究課題
近年、象牙芽細胞が感覚受容細胞であり、これにはTRPチャネルが関与することが明らかになっている。TRPV1チャネルはカプサイシンの受容体タンパク質であり、歯内治療薬で使用される鎮痛効果の高いグアヤコールはカプサイシンと類似したフェノール骨格を有する。そこで、マウス由来の象牙芽細胞系細胞(odontblast lineage cells:OLCs)を用いてTRPV チャネルに対するグアヤコールの作用をカルシウムイメージング法で解析してきた。細胞外Ca2+存在下でOLCsにグアヤコールを投与すると細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)が増加した。この増加はTRPV1、V2、V4チャネルantagonistで抑制されなかったが、TRPV3チャネルantagonistで抑制された。また、細胞外Ca2+存在下でOLCsに低浸透圧刺激(200 mOsm/L)を加えると[Ca2+]iが増加したが、グアヤコールは低浸透圧刺激誘発性[Ca2+]i増加を抑制しなかった。加えて、低浸透圧刺激誘発性[Ca2+]i増加はTRPV3チャネルantagonistを投与しても変化しなかった。グアヤコールは象牙芽細胞のTRPV3チャネルに作用するが、低浸透圧刺激誘発性[Ca2+]i増加を抑制せず、象牙質痛に対する鎮痛効果は低いことが示唆された。そこで、グアヤコールの歯髄ニューロンに対する作用を検討した。Wistar ratから急性単離して得られた三叉神経節ニューロンに10 nM bradykininを加えると[Ca2+]iが増加した。その後、bradykininとグアヤコールを同時投与すると、bradykinin誘発性[Ca2+]i増加は有意に減少した。従って、グアヤコールの歯痛に対する鎮痛効果は直接歯髄に作用し発揮されることが示唆された。
3: やや遅れている
これまでの実験結果から歯内治療薬であるグアヤコールの象牙芽細胞に対する鎮痛効果は低いと考えられ、この薬剤の作用点を別な方向から検討する必要性が生じた。そのため、現在、象牙芽細胞ではなく、三叉神経節ニューロンへの同薬剤の作用について実験中である。当初、予定していた複数の歯内治療薬の象牙芽細胞に対する作用機序を比較までするところまで到達できていない。
これまでの実験結果から、グアヤコールは象牙芽細胞に対してではなく、三叉神経節ニューロンに直接作用し鎮痛効果を発揮する薬剤であると示唆された。現在、三叉神経節ニューロンに対する機械刺激へのグアヤコールの作用について実験を行っており、その結果も含めて論文作成中である。また、その他のフェノール系薬剤について、象牙芽細胞および三叉神経節ニューロンへの作用を調査し、比較検討を考えている。
現在、これまでの研究結果をまとめて論文を作成中である。27年度の投稿を目指していたが、それがやや遅れている。そのため、投稿や英文校正に使用する予定であった研究費補助金が未使用となった。
27年度の研究費補助金の未使用分は論文作成と研究発表のために使用したいと考えている。また、カルシウムイメージングに用いる蛍光色素、あるいはTRPチャネルagonistやantagonistなどは高額で、使用頻度が高い試薬である。28年度は、まだ検討できていない他のフェノール系薬剤についての実験も実施したく、それに必要な試薬、消耗品に補助金を使用したい。
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