研究課題/領域番号 |
26462911
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
冨士 岳志 東北大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (20549323)
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研究分担者 |
佐々木 啓一 東北大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (30178644)
圓山 重直 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (80173962)
竹内 裕尚 東北大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (80586511)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロスケールミスト / プラーク除去 / ノズル / ハイドロダイナミクス |
研究実績の概要 |
超高齢社会を迎え、日本の三大死因の肺炎に占める誤嚥性肺炎の割合は高く、その多くは要介護高齢者や、脳血管障害や高齢に伴う咽頭期障害を有する患者である。口腔プラークは誤嚥性肺炎の感染源として挙げられ、その除去は、齲蝕や歯周病の治療や予防のみならず、口腔機能の維持と回復、呼吸器感染症や消化器感染症の予防にまで大きく関与している。また、口腔ケアを含む周術期口腔機能管理は術前・術後の感染予防や、手術の予後の改善に繋がる。すなわち、周術期の患者や要介護者の口腔プラーク除去は、入院や期間の短縮やQOL向上に寄与するばかりか、増大する国民医療費の削減にも繋がるものと期待されている。しかしながら、歯の表面や舌、口腔粘膜等の上に強固に付着した細菌の塊である口腔プラークの除去は、現行の歯ブラシや清掃用具でプラーク除去を徹底することは容易ではない。そのため超高齢社会を迎え在宅医療の推進の面からも、医療従事者あるいは介護者が、オンサイトで安心かつ安全に使用し得る効果的な口腔プラーク除去器の開発・実用化が喫緊の課題となっている。 そこで我々は、水道水を高圧で微粒子化し、マイクロ径のミストとして高速噴射する技術を応用し、簡便かつ効果的にプラーク除去を行い得る新たな口腔清掃システムの開発・実用化を目指した。本装置の最大の利点は、マイクロスケールの質量の小さいミストを、高速で噴射するため、“人体において全く圧を感じないレベルの低圧”での噴射が可能であることである。これは、これは従来のウォ―タージェットや歯ブラシによる高圧の原理によるプラーク除去法とは全く異なり、歯面・歯髄・歯周組織への為害作用が一切なく、水道水を用いるため安全性も高いと考えられる。本研究では、将来的な臨床応用を見据え、口腔内に適用可能な噴射ノズルの開発及びその小型化を実現するため、噴射ノズル、噴射条件等の必要条件の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床応用を見据えて、噴射ノズル形状、噴射条件等を検討し、噴射ノズルの試作を重ねた結果、扇型にミスト噴射が可能な微細な縦型スリット(W:0.05mm以下)を有する矩形ノズルを作製した。本ノズルを用いることで、高密度で均一なミスト噴射が可能であり、顎模型を用いたプラーク除去試験において歯間部の隙にも効果的に噴射され、さらにエアーアシスト(0.5MPa)を付与することで良好な結果を得た。 並行して、流体力学による数値解析の結果、被噴射面の液膜の存在が、最大圧力、最大相当応力の減少つながり、これらがプラーク除去に繋がっていることが示唆された。また、流体力学の計算式から、ミスト生成が可能な噴射口の形状や、流量、吐出圧等の噴射条件を求め試作に繋げた。一方で、歯科ミスト洗浄特性シミュレーションシステムを構築し、歯、口腔粘膜、プラーク、ミストの物性データ(弾性率、ポアソン比、比重)およびミスト噴射条件(角度、速度、滴径)を設定し、衝突前後のミストやプラーク等の挙動のから、in vitroにおけるプラーク除去能の最適条件を検索した。 本装置の薬事承認を得るに当たって検討すべき事項を明らかにするために、PMDAと開発前相談の対面助言準備面談を受け、相談品目の概要を説明し、相談区分、今後の相談の進め方について確認を行った。対面助言に従って、動物実験を含む安全性の評価モデルおよび非臨床試験のプロトコールの作成を開始した。 H26年度中に、ノズルの基本特性の策定は済んでおり、当初の予定通り、試作ノズルを用いた非臨床試験をH27に実施予定である。また、マイクロスケールミストスプレーによるプラーク除去法の原理についても、ひとつの見解を得ており順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
エアーアシスト圧を除く噴射条件は歯科用チェアーに配管されたエアー圧の設定以下であり、臨床を見据えその減圧(0.25MPa以下)が課題として挙げられる。また、将来的な臨床応用を見据え、様々な口腔環境下を想定し、唾液やプラークの粘性、付着強さ、口腔内の温度や湿度、適用空間である口腔内の解剖学的形態(口腔、咽頭、舌)の情報を設定し、より臨床データに近い流体シミュレーションの実施し、ノズル形状の改良(エアー噴射口の角度、形状、個数)、プラーク飛散防止のためのバキューム併設を検討する。PMDAでの準備面談を行い、動物実験を含む安全性の評価モデルを構築するとともに、非臨床試験プロトコールを作成し、非臨床試験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度は、人件費および謝金を計上していたが人員は充足しており、また装置開発費に関しても、既存品での対応が可能なものが一部あり、当初予算よりも抑えることができた。これらの経費を、研究に要する器具や機材、消耗品等購入に充て研究の更なる進捗を図ったが、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は当初の予定通り非臨床試験を実施予定であり、加えて更なる安全性の評価として動物実験を新たに予定している。これらの研究の実施に当たり見込まれる人件費および謝金の増加と、さらなる遂行ための器具機材の購入に次年度使用額を充当する予定である。
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