研究課題/領域番号 |
26462917
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 隆志 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (20198211)
|
研究分担者 |
関野 徹 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (20226658)
若林 一道 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (50432547)
矢谷 博文 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (80174530)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ジルコニア / 透光性 / 低温劣化 / シリカ / 曲げ強度 |
研究実績の概要 |
近年、透光性をもつイットリア系ジルコニア(Y-TZP)で作製したクラウンブリッジが多用されるようになった。ところが、透光性Y-TZPは、光を透過させるためにアルミナを減少させている。このため、口腔内で長期使用した場合、Y-TZPの低温劣化によるクラウンブリッジの破折が懸念される。我々は、以前にY-TZPに微量のシリカを添加することにより低温劣化を抑制することを報告した。本研究では、これを応用して低温劣化しにくい透光性Y-TZPの開発を試みた。 前年の研究で、市販の透光性ジルコニアと同程度あるいはそれ以上の透光性を示したイットリアを3mol%、シリカを0.12wt%含み、焼結温度を1450℃および1500℃としたY-TZP(3Y-1450および3Y-1500)、イットリアを6mol%、シリカを0.12wt%含み、焼結温度を1500℃としたY-TZP(6Y-1500)の3種を使用し、134℃2気圧の水中で40時間まで劣化試験を行い、結晶構造、曲げ強度、ビッカース硬度、表面粗さの変化を検討した。コントロールには市販の透光性Y-TZPを使用した。 その結果、劣化の指標となる単斜晶の出現率は、3Y-1450および3Y-1500では40時間後で約20%であり大きな劣化はみられなかったが、市販のY-TZPでは劣化40時間後で約80%になり、明らかな低温劣化を示した。40時間の劣化試験後に、市販の透光性Y-TZPは曲げ強度が約18%低下したが、3Y-1450および3Y-1500では曲げ強度の低下は約10%であり、6Y-1500では、曲げ強度の低下は観察されなかった。40時間の劣化試験後に市販透透光性ジルコニアでは、表面粗さRaが約2倍に増加し、表面が粗造であるためビッカース硬度は計測できなかった。試作Y-TZPは3種とも表面粗さやビッカース硬度に大きな変化はみられなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前の研究から、微量のシリカを含有させたイットリア系ジルコニア(Y-TZP)は低温劣化しにくい性質をもつことが分かっていたが、透光性については不明であった。26年度の実験で、0.12wt%のシリカ添加アルミナ無添加のY-TZPを試作したところ、市販の透光性Y-TZPに近い分光透過率が得られた。また、Y-TZP原料の粒径が小さいと透光性が向上するとの報告があり、本年度は同じ0.12wt%のシリカ添加アルミナ無添加のY-TZPであるが、より粒径の小さい原料を使用したところ、市販の透光性ジルコニアを上回る透光性が得られたため、透光性については、ある程度目的を達成することができた。 本年度は、この0.12wt%のシリカ添加アルミナ無添加のY-TZPを使用し、イットリアの含有量、焼結温度を変化させて実験を行った。その結果、イットリアを3mol%含み1500℃で焼結したY-TZPとイットリアを6mol%含み1500℃で焼結したY-TZPが市販の透光性ジルコニアよりも高い透光性を示した。ところが、イットリアを6mol%含むY-TZPは結晶が通常の正方晶ではなく立方晶が多く、一般の歯科用Y-TZPの1/3程度の強度(約300MPa)であり、ブリッジには使用できないことが明らかとなった。 イットリアを3mol%含み1500℃で焼結したY-TZPは、134℃40時間の加速劣化試験を行っても強度が約900MPa(初期強度の約90%)であり、透光性をもつが劣化しにくい材料であることがわかり、劣化しにくい透光性Y-TZPの最適化が行えた。
|
今後の研究の推進方策 |
イットリアを3mol%、シリカを0.12wt%含み1500℃で焼結したY-TZP(3Y-1500)が透光性に優れ、劣化しにくい材料であることがわかったが、この材料を使用して実際に補綴装置が製作できること、さらに、製作した補綴装置が低温劣化しにくいことを示す必要がある。 まず3Y-TZPで完全焼結ブロックを製作し、これをCAD/CAMシステムにより切削加工が可能であるかどうかを確認する。市販のY-TZPでは、完全焼結Y-TZPよりも切削しやすい半焼結ブロック(焼結温度約1000℃)を切削加工した後に、最終の焼結を行うが、最終焼結の際に収縮量を補正しないと補綴装置が支台歯に適合しない。そこで、我々の実験では、収縮が生じない3Y-TZPの完全焼結ブロックを製作してクラウン形態に加工し、試料を製作する。 コントロールには、市販の高透光性ジルコニアを使用し、同じクラウン形態になるよう半焼結ブロックのCAD/CAMシステムによる加工、最終焼結を行う。完成したクラウン試料は、27年度と同様に134℃2気圧の条件で劣化させた後、支台歯模型に接着してから破壊実験を行う。劣化時間は、予備実験を行い決定する。加速劣化試験後の破壊実験により、3Y-TZPで製作したクラウンが市販の高透光性ジルコニアクラウンよりも、破壊加重が大きいことが示されれば、3Y-TZPが透光性はあるが低温劣化しにくい材料であることが示される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、作製試料のX線回折や、表面粗さ測定などは、リース機器を用いて測定する予定であったが、共同研究施設にある機器で測定が可能であったため、次年度使用額が約1万円生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
前年度に引き続き、材料の購入費、加工費、計測外注費等に使用の予定である。
|