研究課題/領域番号 |
26462933
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
古屋 純一 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (10419715)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 義歯 / 嚥下 / 咀嚼 / 高齢者 / 食塊形成 / QOL / 介護 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,本研究の基本となる有床義歯の評価,口腔機能の評価,食塊形成能・嚥下機能の評価の関連性について研究を行うため,若年有歯顎者と高齢全部床義歯装着者で研究を行い,両者から得られたデータを比較しながら,食塊形成能・嚥下機能に肯定的に働く口腔の要件を検討した. まず有歯顎者を対象に,経鼻的に挿入した内視鏡にて嚥下前の食塊を観察し,食塊形成度を定量的に測定し,また,粉砕度・混和度・集合度による定性的評価を行った.さらに,咬合力,咬合力面積,最大舌圧を測定し,これらの関連性を調査した.その結果,食塊形成度と最大舌圧は,咀嚼回数,咬合力,咬合力面積との間に,有意な正の相関を認めた.一方で,集合度はすべての項目との間に有意な相関を認めなかった. 高齢全部床義歯装着者と若年有歯顎者との比較では,前者において色変わりガムによる咀嚼能力評価の値が有意に低値であり,嚥下までの咀嚼回数は高い傾向を認めた.その一方で,内視鏡による食塊形成度の評価では有意な差は認められなかった.また,嚥下造影による食塊搬送の評価では,下咽頭領域の食塊通過時間には差は認めなかったものの,中咽頭領域の食塊通過時間は有意に全部床義歯装着者で延長し,口腔領域における食塊通過時間は短縮した. 嚥下のためには,1つの塊に集合している状態にまで,食塊が形成されていることが重要であり,そのためには咬合力や舌機能が関連していることが明らかとなった.さらに,高齢全部床義歯装着者においては,その低い咀嚼機能や舌機能を補うために,嚥下までの咀嚼回数を増加させることで,若年有歯顎者と同等の食塊形成を行っている可能性が示唆された.また,高齢全部床義歯装着者においては,舌機能の低下によって口腔における食塊保持能力が低下し,早期に口腔から咽頭へと食物が侵入し,咀嚼から嚥下に至る食塊搬送にも影響を及ぼしている可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有床義歯使用患者では,アイヒナーC3患者を対象に,予定していた有床義歯の評価,咀嚼効率の評価(色変わりガム),咬合力・咬合接触面積の評価,内視鏡および嚥下造影を用いた食塊形成能・嚥下機能の評価を行うことができた.その一方で,口蓋部の義歯デザインに関連する,口蓋部の床形態と食塊形成能・嚥下機能の関連については,予備的な検討に留まった.しかし,平成26年度の主たる目的である,食塊形成能・嚥下機能に肯定的に働く口腔の要件は,咀嚼能力に関連する咬合力や舌機能であることを示唆できた点から,現在までの達成度はおおむね順調と考えた.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究から,有床義歯装着者においては,円滑な嚥下のために低下した咀嚼能力を代償しており,摂食時の食塊形成能・嚥下機能を評価する上では,口腔・咽喉頭における関連器官の運動評価を時間的・空間的に行うことが重要であることが明らかとなった.そのため,平成27年度では,内視鏡および嚥下造影を用いた,口腔・咽喉頭の器官の時間的・空間的な運動評価を中心に研究を行う.さらに,本年度に遂行する予定であった口蓋部の床形態と食塊形成能・嚥下機能の関連についての研究も進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の使用率は80%を超えてはいたが,舌圧センサなどの消耗品の使用方法を工夫することで,使用数を減少させることができたこと,また旅費が想定より少なかったため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は,摂食時の口腔・咽喉頭の運動を時間的・空間的に評価するため,内視鏡用CCDカメラを購入し,解析を行う.また,有床義歯の評価や口腔機能の評価に関わる,口腔細菌の状態についても機器によって評価し,検討を行う.
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