研究課題
平成28年度はこれまでの研究の継続と総括を行った.高齢全部床義歯装着者25名を対象に,咀嚼時と嚥下時の下顎,舌骨,喉頭,咽頭後壁,上部食道括約筋の運動を観察した.得られた動画から,各器官の咽頭嚥下時の運動範囲を定量的に計測し,義歯装着による効果を検証した.その結果,口腔機能に適した義歯が装着されると,義歯撤去時と比較して有意に食塊形成時の下顎および舌骨の運動範囲が適正化されることが明らかとなった.また,食塊形成中の口唇および舌の運動についても,定性的評価ではあるが,有意に安定することが明らかとなった.また,咽頭嚥下時の運動については,義歯装着によって,下顎,舌骨,喉頭の運動範囲が有意に適正化され,咽頭後壁および上部食道括約筋の開大量も有意に適正化されることが明らかとなった.次に,高齢全部床義歯装着者15名と若年有歯顎者18名の口腔機能と食塊形成能を評価し,両者の関連を検討した.咬合力や最大舌圧は義歯装着群で有意に低下していたが,嚥下前の食塊形成度はむしろ義歯装着群でやや高く,安全な嚥下のためには一定レベルの食塊形成が重要であることが明らかとなった.嚥下までの咀嚼回数は義歯装着群で多かったため,高齢義歯装着者では,少ない咬合接触面積や咬合力を代償するために嚥下までの咀嚼回数を増やしていることが示唆された.食塊形成については,義歯による口蓋の被覆が重要な意味を持つと考えられるが,一部予備的に行った研究では,口蓋開放型のデザインの義歯床では,口蓋の被覆に順化すると嚥下までの咀嚼回数が元通りになることが明らかとなった.以上の義歯と嚥下の関係を踏まえた上で,嚥下障害患者の口腔機能低下を臨床統計学的に調査したところ,多くの患者で口腔機能低下が生じており,特に咀嚼・嚥下に関わる舌機能や残存歯数だけでなく,義歯の質が嚥下障害の程度に何らかの影響をおよぼしている可能性が示唆された.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Journal of Oral Rehabilitation
巻: 43 ページ: 847-854
10.1111/joor.12437