研究課題
昨年に続き、上顎全部床義歯装着患者の義歯支持粘膜の性状解析を目的に、無歯顎者の粘膜厚さ、及び疼痛を感じるまでの荷重量、沈下量の実測値を用いて、三次元有限要素モデルから生体に近似した義歯支持粘膜モデルの弾性率の推定方法を検討した。被験者は、粘膜性状解析 (厚さ、弾性率)、疼痛閾値解析(圧力、圧縮率、沈下量) を行った17名の無歯顎者(男性8名、女性9名、平均年齢78.4歳)である。解析部位は上顎左側口蓋正中部、口蓋中間部、口蓋側方部の3ヶ所とした。 三次元有限要素解析ソフトウェアを用い、解析部位3ヶ所の義歯支持粘膜モデルを各々構築した。義歯支持粘膜モデルは底面を10×10 mm、厚さが各々の被験者の実測値の直方体とした。モデル構築においては、荷重量を一定とし、沈下量が実測値との誤差5 %以内に収束するような弾性率を推定した。その後、推定した弾性率と義歯支持粘膜の厚さとの関係、及び推定した弾性率と実測値(圧力/圧縮率)の比較を行った。推定した弾性率は全ての部位で、実測値より有意に小さな値を示した。また、粘膜の厚さが最も厚い口蓋中間部は、推定値が最も小さかった。さらに、推定値が口蓋中間部で大きく、口蓋側方部が小さい被験者データもあり、個人差を認めた。しかし、全ての部位で弾性率と義歯支持粘膜の厚さとの間に有意な相関関係は認めらなかった。上顎全部床義歯装着患者の義歯支持粘膜の弾性率は、一概に厚さから推定できないことが示唆された。以上の結果から、口蓋部だけでも義歯支持粘膜の性状は様々であり,臨床的な解析には部位毎の弾性率の設定が重要であることが示唆された。よって、臨床的な粘膜の支持力の把握には口蓋床を用いた動的な弾性率測定が必要であると確認できた。
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