現在臨床で使用されている義歯材料にはレジン系(PMMA)と金属系(Au,Ti)が存在する.各種材料への唾液関連タンパク質の吸着を定量することは汚れのメカニズム等を解明するためには重要である.汚れの吸着量を定量化する為に,ナノグラム程度の物質が吸着すると物質の質量に比例して共振周波数が減少するという性質を微量天秤として利用したQCMシステムを使用した.Au QCMセンサ表面を洗浄後,スピンコート法でPMMA QCMセンサを,スパッタ法にてTi QCMセンサを作製した.コーティング前後の薄膜表面の観察を走査型プローブ顕微鏡(SPM),表面の元素解析をXPS,ぬれ性の分析を接触角測定にて行った.また唾液関連タンパク質であるウシ血清アルブミンとウシ血清ムチンの吸着挙動をQCMおよびXPSにて解析した.SPMの結果から,センサ表面にはPMMAおよびTiが均一に成膜されており,表面粗さについても材料間に差は認められなかった.XPSの結果では,各種センサに特有の構成元素のピークを認めた.接触角の結果では,各種金属材料においてはPMMA QCMセンサは接触角が有意に大きく,疎水性であることが明らかとなった.以上より,Auセンサ上にPMMAとTiが成膜されている事が明らかとなった.QCMの結果から,両タンパク質の吸着量はPMMA QCMセンサでは他のセンサと比較して統計学的に有意に高い値を示した.またタンパク質吸着後のXPSによる分析で,吸着前後に炭素と窒素の明らかなピークの変化を認めた.QCMの結果から示される通り,PMMAの吸着量が最多であった事は,今回の接触角とXPSの結果から,材料表面上の汚れの吸着には,濡れ性と化学的組成が関与していると考えられる.従って,今回作製したPMMA及びTi QCMセンサは義歯材料表面を模倣し,義歯の汚れの吸着を定量する上で有用である事が明らかとなった.
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