研究課題/領域番号 |
26462964
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
野崎 浩佑 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (00507767)
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研究分担者 |
堀内 尚紘 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (90598195)
江部 典子 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (20611099)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | チタンインプラント / 表面改質 / 表面電荷 / 電気分極 / 骨粗鬆症 |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症は,骨芽細胞と破骨細胞のカップリングの不調和により骨形成の低下や,骨吸収の増加,骨質の劣化などが生じることが明らかとなってきた.そこで,我々は骨芽細胞の反応をマニピュレートすることを目的としたベクトルマテリアルを作製するために,生体親和性を有するセラミックスを,電気分極を用いて表面改質を行い,培養細胞の増殖・接着・分化に及ぼす影響を検討する実験系を確立してきた.チタンインプラントのコーティング方法で幅広く臨床応用されている,マイクロアーク酸化(MAO)により形成された酸化チタンは,電気分極処理により表面電荷を制御可能であり,分極酸化チタン上で骨形成が増加することを報告した.そこで,本年度は,表面電荷を最適化する為に,種々の条件で酸化チタンに対して電気分極処理を行い,以下の知見を得た.1:分極温度を変化させた場合,100℃では表面電荷は制御不可能であったが,200,300,400℃で電気分極処理を行った場合,表面電荷が制御できることが分かった.また,400℃にて加熱し,直流電界を100,200,300,400V/mmに変化させ,表面電荷制御を試みたところ,直流電界の増加に伴い,表面電荷が増加する傾向を示した.以上の事から,酸化チタンは酸素空孔を主なキャリアとし,イオン分極もしくは空間電荷分極により表面電荷を制御可能であることが示唆された.2:本実験によりMAOにより形成された酸化膜は,形成直後から表面電荷に極性が存在することが明らかとなり,酸素空孔とは異なるキャリアが存在することが示唆された.本キャリアは300℃以上の熱処理により,その配向性を失うことから,今後,キャリアの同定が必要と考えられる.3:種々の条件で電気分極処理を行った試料の水を用いた静的接触角を計測したところ,電圧の上昇に伴い,ぬれ性の向上が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,生体材料として広く使用されているチタン表面にMAO処理により酸化チタン膜を作製し,種々の条件下での電気分極により表面電荷の制御を試みた.酸化チタンの表面電荷は電気分極処理により制御可能であり,その最適化により骨芽細胞の機能を制御することの可能性が示唆された. また,骨粗鬆症の原因とされている女性ホルモンのエストロゲンを欠乏させた細胞実験モデルを構築した.女性ホルモンの低下による骨粗鬆症患者は,現在,増加傾向にあり,骨形成を制御できるベクトルマテリアルは,インプラント治療において有益であると考えられる.培養液中のエストロゲンを除去し,骨芽細胞を培養したところ,アルカリフォスファターゼ(ALP)活性の減少が生じ,エストロゲンを追加することによりALP活性の向上が認められた.本実験モデルを用いて,表面電荷を制御した酸化チタン上での骨芽細胞の増殖・分化を検討し,最適化を検討している. また,骨粗鬆症患者を想定した疾患動物モデルの作製を行った.日本白色家兎の雌に卵巣摘出術(OVX)を行い,一定期間経過したのちに骨質を評価したところ,界面骨量の減少は認められないものの,骨含有コラーゲン量およびミネラル成分の炭酸イオンが減少したころから,骨質低下型の骨粗鬆症が生じていることが分かった.今後,本モデルによる実験動物に最適化したインプラントを埋入し,その骨形成能や形成された骨質の評価を行う予定である. 以上より,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
近年,歯科領域において歯牙欠損に対する治療法として,審美的・機能的側面からインプラントによる治療が盛んに行われるようになってきた.しかしながら,骨強度の低下を引き起こす骨粗鬆症は,口腔インプラント治療を妨げる全身的リスクファクターとして問題視されており,インプラント治療の適応が制限されている.骨粗鬆症は,骨芽細胞と破骨細胞のカップリングの不調和により,骨形成の低下と骨吸収の亢進により発症する.そのため,生体内に埋入された生体材料上での骨形成能の低下は,口腔インプラント治療の予後を左右すると考えられる.我々の開発した,電気分極処理による生体材料の表面電荷の制御は,細胞の機能をマニピュレート可能であり,骨粗鬆症に適応可能なインプラント材料の開発に貢献できると考えられる.近年,外国の研究者も追随を受けており,英国Bath大学のBowen、Turnerのグループや米国Washington state大学のBoseのグループが分極ハイドロキシアパタイトの生体に与える影響を検討し,その有用性を報告している.しかしながら,表面電荷を精密に制御したグループは申請者のみであり,その細胞に及ぼす影響を早急に明らかにし,生体材料の開発に貢献する必要が有ると考えられる. また,骨粗鬆症は女性ホルモンであるエストロゲンの低下により引き起こされることが明らかとなっている.エストロゲンは,直接的に骨芽細胞の増殖・分化を制御するとともに,細胞外基質との接着タンパク質であるインテグリンスーパーファミリーのシグナリングカスケードに関与し,間接的に細胞機能を制御することが報告されている.本実験モデルを利用し,インテグリンスーパーファミリーとエストロゲンの相互作用メカニズムを明らかにし,基礎的研究の発展に貢献する必要が有ると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額が生じた理由は,電気分極処理の条件数が当初予定よりも少なかったため,試料作製用費用が当初予定額よりも少なかったためである.次年度は,細胞培養や動物実験が開始され,必要な試料が本年度よりも増加するため,未使用顎については次年度研究費と併せて使用する計画である.
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額と次年度使用額を併せて以下の項目に関して使用する予定である.①研究成果発表のための旅費(国内会議,国際会議)②試料作製に必要な薬品,消耗品の購入③細胞実験のための必要な薬品,消耗品,解析用試薬④動物実験のための必要な薬品,消耗品,解析用試料作製のための薬品,試料滅菌のためのガンマ線滅菌費用.
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