研究実績の概要 |
癌の浸潤・転移機構の解明は、癌の制御に極めて重要である。ヒト扁平上皮癌細胞株SAS を用いて頸部リンパ節高転移株SAS-LM8を確立した。SAS-LM8、SAS-GFPについて、細胞形態、増殖能、遊走能等の生物学的特性に関して評価した。SAS-LM8は、SAS-GFPに比較して、細胞形態の伸張化、遊走能及び浸潤能の顕著な亢進を認めた。アクチン細胞骨格の変化と細胞骨格再構成に関する低分子量Gタンパク質であるRho family分子(Cdc42, Rac1, RhoA)の活性化を認めた。両細胞株(SAS-LM8及びSAS-GFP)のWntシグナルの発現を検討すると、β-カテニン非依存性経路を活性化する因子であるWnt5bの発現の亢進を認めた。Wnt5b siRNAによるノックダウンにより、両細胞株共に遊走能が低下し、細胞周囲の仮足様突起の減退を認めた。Wnt5b添加により両細胞株共に運動能の亢進と細胞周囲の仮足様突起およびCdc42,RhoAの亢進を認めた。以上よりWnt5bはβ-カテニン非依存性経路を介して、Cdc42、RhoAの活性化、細胞骨格の再構成、に影響を及ぼし、細胞運動能を亢進することを明らかにした。さらにヒト生体組織を模倣した組織モデルを用いて、SAS-LM8,HSC-LM3、及びWnt5bによるSAS-GFP、HSC-GFPの浸潤能、遊走能を解析した。一方ヒト扁平上皮癌細胞株HSC-3を用いて高転移株HSC-LM3を確立し、SAS-LM8と同様の結果を得た。さらにWnt5bによって、SAS-GFP及びHSC-GFPは、間葉系マーカーの変化を認め、sphere formation assayにてsphere形成の亢進を認め、CD44及びCD133陽性細胞の増加を認めた。Wnt5bが、上皮間葉転移(EMT)や癌幹細胞様細胞(CSC)に影響を及ぼすことを明らかにした。
|