研究実績の概要 |
タバコの主要成分ニコチンは,喫煙により肺胞や口腔粘膜から吸収され,血中に移行する.血中のニコチンは,中枢神経系のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に作用し,多幸感をもたらし,タバコの依存性に関与する.最近我々は,主に神経系のみに存在すると考えられていたnAChRが,乳癌細胞にも存在し転移を促進することを報告した(Guo J, Cancer Res, 2008).さらに我々は,口腔癌細胞において(1)ニコチンがEGFRのリン酸化を促進させること(2)ニコチンが運動能を上昇させること,を確認した(兒玉真一, 岡山歯誌,2013).これらの知見より生じる疑問である,ニコチン-nAChR系が,EGFRの活性化を介して,癌の浸潤・転移を促進しているかという点について,口腔癌リンパ節転移動物モデルを用いてその解明を目指した. ヌードマウスの足底皮下に口腔癌細胞を移植しリンパ節転移動物モデルを作製した.リンパ節転移動物モデルにおいて,ニコチン投与によって腫瘍体積が増加し,リンパ節転移が促進された.ニコチンは口腔癌細胞の増殖能,遊走能,浸潤能を促進したが,nAChR阻害薬はその効果を抑制した.抗EGFR抗体は口腔癌細胞の増殖能,遊走能,浸潤能を抑制したが,ニコチンはその効果を解消した.ニコチン添加により口腔癌細胞のEGFR発現は減弱したが,リン酸化し核内移行した.ニコチンはEGFR下流のシグナル伝達因子を活性化したが,nAChRを阻害するとシグナル伝達因子は抑制された.
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