研究実績の概要 |
インドネシア近海で採取した海洋生物で紅藻ソゾ属の一種Laurencia Intricataをエタノール・メタノール溶液にて抽出し,水画分,酢酸エチル画分,ヘキサン画分に分配しそれぞれの画分を再度,逆相カラムで抽出し,28種類の粗雑なサンプルを得た.これら抽出物(H1~H14,M1~M14)の扁平上皮癌細胞に対する細胞毒性試験を当教室で確立した無血清培養法を用いて行った.DMSOに溶解したサンプルを最終濃度が10,1,0.1μg/mlとなるように培地に添加しアッセイした.その結果,H4,H12,H14,M12の活性が高く,特にM12は低濃度で殺細胞効果が高く,そのIC50は0.03μg/mlであった.この抽出物をさらに精製しKS-I-185-2,KS-I-194-2,KS-I-194-4,KS-II-3-7,KS-II-3-11,KS-II-8-6を得た.LC/MSにてその構造解析を行った結果,Aplystatin,PalisadinnA,Palisol,5-beta-HydrooxypalisadinBが同定されたが,すべて既知の化合物であった.これらは比較的良く知られたbrominated sesquiterpens(臭化セスキテルペン群)であり扁平上皮癌細胞に対する細胞毒性試験の結果,そのIC50は0.15,1.42,0.59,0.45μg/mlであった.同様に分離したKS-III-26-5はIC50が0.8ng/mlと今までの抽出物の中で最も強力な細胞毒性を示した.構造解析を行った結果,crambescidin 657という既知化合物であったが,精製を進め純粋化合物を得た(KS-III-73-5).KS-III-73-5の扁平上皮癌細胞に対する抗腫瘍効果の検討を行った結果,そのIC50は0.001μMであった.この濃度で処理を行い,Bio-Plexにてシグナル解析を行ったところ,処理120分でERK1/2およびp38MAPKのシグナル伝達が関与する事がわかった.ウェスタンブロットにてタンパク解析を行ったところ処理120分でERK1/2のリン酸化が亢進してしていることがわかった.現在この化合物の扁平上皮癌細胞に対する抗腫瘍効果のメカニズムを引き続き検討している.
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