研究課題
顎口腔における増殖性病変の病理発生に関する研究であり,炎症性のものと腫瘍性のもの二者について検討した。炎症性のものとして,実験にはGFP骨髄移植マウスモデルを使用した。その結果,マクロファージや異物巨細胞の他,一部の毛細血管内皮細胞も骨髄間葉細胞由来であることが明らかになった。また,マウスの上顎第一臼歯の髄床底部を 1/2 歯科用ラウンドバーを用い穿孔によるモデルによって蛍光二重染色により検討した。マウス臼歯の髄床底の穿孔により同部に肉芽組織の増殖を惹起し,ポリープを形成させ,その細胞がどこから供給されているか明確にした。その結果,線維芽細胞,歯根膜線維芽細胞,血管が移植骨髄肉芽細胞由来であることがわかった。よって,歯根膜部に生じたポリープの増殖本態の肉芽組織は,骨髄由来の未分化間葉細胞が移動・分化すること,また同部の線維芽細胞は傷害を与えられたそれぞれの組織に特化した細胞に分化することを明らかにした。腫瘍性病変として,口腔の多形腺腫は多様な組織像が特徴であるが、充実性に増殖した腫瘍胞巣の細胞の分化は研究があまりなされていない。そこで,腫瘍実質細胞の分化について,WHOの分類に基づく典型的な多形腺腫30症例(平均年齢は51.5歳、男性13症例、女性17症例)に付検討した。多形腺腫では,腺管様構造を呈し,とくに立方形細胞の部位で,Wntが細胞分化に関与しており、Wntはβ-catenin経路を介して働いている事が考察される。また,扁平上皮化生部位の、基底細胞様細胞では、Wntはβ-catenin経路以外で働いていることが示唆される。以上のことより、多形腺腫,特徴である、様々な組織への分化には,大きくWntが関与しているが,β-catenin経路を介して分化に関与するものと,それ以外での経路で分化に関与しているものと,細胞形態、部位によって変化していることが考察される
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