研究実績の概要 |
慢性炎症により癌微小環境内で産生されるTNF- α (腫瘍壊死因子)は,近年,転移環境の整備に関する腫瘍促進因子であることが明らかになっている(Malik ST,et al:Eur J Cancer(1990)26:1031-1034)。また、Angiopoietin-like protein 4(ANGPTL 4)はAngiopoietin の構造類似蛋白で、脂質代謝や血管新生因子としての働きが指摘されているが、レセプターは見つかっておらず、その機能にも不明な点が多い。ANGPTL4 は低酸素で誘導される分子であり、腫瘍の微小環境との類似性を考慮すると、悪性腫瘍においてもなんらかの機能を果たしていることが示唆され、既に前立腺癌、肝臓癌、乳癌等での報告もある。最近、癌の遠隔転移における癌細胞の血管内皮細胞通過の過程にANGPTL4 が関与している可能性が報告されており、脈管侵襲およびそれに続く遠隔転移、再発は、予後不良の大きな原因となっていることから、我々はANGPTL4 が口腔扁平上皮癌の進展に影響している可能性を考えた。申請者は樹立した転移株(Tanaka, Nakayama et al., Cancer Sci,2012)のマイクロアレイで発現が上昇したANGPT4に着目し、口腔扁平上皮癌の患者予後との関係を解析した。また、ヒト癌や癌細胞株での発現、ANGPT4の癌細胞増殖・浸潤や転移等の作用および受容体との作用の関係を研究した。 今回、申請者は、患者の組織検体を用いて免疫染色を行うことでANGPT4が転移のない患者に対して有意に発現の上昇を確認した。また、その発現の上流にTNF-α-TNF-R1を介したオートクラインループによるNF-kBの恒常的な活性によりおこっている可能性について報告した(Tanaka et al, Int. J. Oncol. 2016)。
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