研究課題/領域番号 |
26463054
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研究機関 | 松本歯科大学 |
研究代表者 |
長谷川 博雅 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (60164828)
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研究分担者 |
中野 敬介 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (10325095)
落合 隆永 松本歯科大学, 歯学部, 講師 (20410417)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 臨床腫瘍学 / 顎骨部病変 / 形質発現 / 分子病理学 |
研究実績の概要 |
顎骨部病変の腫瘍性・増殖性病変の起源と腫瘍の形質発現に関わる分子調整機構の解明を本研究では行っている。平成27年度は歯原性腫瘍での分化異常を角化機構に着目し周辺帯形成について検討した。角化嚢胞性歯原性腫瘍20例と石灰化嚢胞性歯原性腫瘍7例を抽出し周辺帯関連タンパク質であるinvolucrin (IVL)、transglutaminase 1 (TGM1)、transglutaminase 3 (TGM3)、transglutaminase 5 (TGM5)の組織内分布を検索した。角化嚢胞性歯原性腫瘍は、有棘細胞から角化細胞の細胞質にIVLは局在し、一部で基底細胞の細胞質に陽性だった。TGM3は基底細胞から有棘細胞の核と細胞質に発現した。TGM5は基底細胞の核と細胞質に発現し、有棘細胞では核と細胞膜への局在を認めた。TGM5の一部の症例で散在性に核に陽性だった。TGM1は有棘細胞の核と細胞質に発現したが、基底細胞から角化細胞に様々な局在を示した。石灰化嚢胞性歯原性腫瘍は、幽霊細胞周囲のエナメル髄様細胞と核の残存する幽霊細胞の細胞質にIVLは局在した。TGM1は幽霊細胞周囲のエナメル髄様細胞の細胞質に陽性だった。TGM3は幽霊細胞周囲のエナメル髄様細胞の細胞質と核に陽性だった。TGM5は高円柱状細胞とエナメル髄様細胞の核に陽性だった。重層扁平上皮での角化機序はIVLやLORをTGM1、TGM3、TGM5が架橋することで角質層の形成が行われる。角化嚢胞性歯原性腫瘍は、TGM3が基底細胞から有棘細胞で発現した。さらにTGM5が基底細胞の核と細胞質に発現し有棘細胞では細胞膜への移行が観察された。TGM3とTGM5の発現はIVLの局在と関連し、角化に関与する可能性が示唆された。石灰化嚢胞性歯原性腫瘍は、エナメル髄様細胞でIVL、TGM1、TGM3が幽霊細胞を形成に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
顎骨部に発生する病変は様々な分化や形質発現を示す。本研究はこれら顎骨部病変の腫瘍性・増殖性病変の起源と腫瘍の形質発現に関わる分子調整機構の解明を目的とする。現在までは、顎骨部の腫瘍性病変の代表的なエナメル上皮腫において現在まで知られていないSYP発現が存在することを明らかとした。また、SYP発現に関連するシグナル伝達系としてNotchシグナリングが関与する可能性が示唆された。さらに、歯原性上皮組織はしばしば扁平上皮化生し角化する。歯原性上皮組織の角化機構を角化に重要な周辺帯構成タンパク質を検索し歯原性上皮における角化機序の一部を明らかとした。Notchシグナルは様々な細胞分化や形態形成に重要な働きを有することが知られ歯原性上皮においても重要な分化調節因子として機能している可能性が推測される。現在までに歯原性上皮組織の神経内分泌細胞への分化や扁平上皮化生での角化現象の調節機構の一部を明らかとしたので、概ね研究は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、マイクロアレーで明らかとなったNothcシグナル伝達系がSYP発現と関連するか詳細に検討する予定である。エナメル上皮腫のパラフィン包埋標本からmRNAを抽出しNotchファミリーの遺伝子発現を比較し、Notchシグナリングの下流遺伝子群を検索しSYP陽性例と陰性例で比較検討を行う。さらにSYPを制御する遺伝子群との関連を検索する予定である。また、扁平上皮化生や歯原性上皮組織の角化調節因子をNotchシグナルによって調節されているか分子生物学的ないし免疫組織学的に検索を行う。さらに、マウス歯胚で遺伝子発現ベクターを用いたNotch遺伝子の過剰発現やsiRNAにてNotch遺伝子を抑制することで、SYPの発現や扁平上皮化生および角化現象を誘導するモデル実験を行う予定である。
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