研究実績の概要 |
本研究では、神経障害性疼痛の発症機序を、脊髄後角から皮質・中脳脊髄路、大脳辺縁系に至る神経系におけるグリア細胞の作用を時系列的に解明することを目的としている。本研究計画における動物モデルによる実験計画では、ラット下歯槽神経を結紮する下歯槽神経障害モデルおよび側脳室、脊髄くも膜下腔内への薬剤投与による慢性疼痛発症モデルを使用する予定であったが、研究期間中に安定した動物モデルを得ることができなかったため、急性痛から慢性痛に至る過程を観察することが可能なcarrageenannの咬筋内投与による動物モデルを使用して、基盤となる研究に取り組んだ。 Carrageenannの咬筋内投与による動物モデルでは、carrageenannの咬筋内投与後約24時間まで急性痛が発症し、投与後約2週間で慢性痛に移行し、その後投与後4週間まで慢性痛が継続することが確認された。このモデルを使用して,急性痛から慢性痛に課程でのマイクログリアの作用の評価をマイクログリア活性抑制剤であるミノサイクリン塩酸塩の投与を行うことで行った。 マイクログリア活性抑制剤投与を急性痛発症前(carrageenannの咬筋内投与直前)から行った群では、急性痛の発症を抑制することはなかったが、慢性痛の発症は抑制されることが確認された。また、マイクログリア活性抑制剤投与を慢性痛発症後(carrageenannの咬筋内投与2週間後)から行った群では慢性痛発症は抑制されないことが確認された。 これらのことから、急性痛発症の時期においてマイクログリアが慢性痛の形成に関与していることが予想され、慢性痛の発症を予防するには、できるだけ早い時期にマイクログリアの活動を抑制することが重要だと考えられる。
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