初年度では、全身麻酔時に経口挿管した気管チューブに付着した細菌数と菌種について検討し、さらに口腔ケアとの関連性についても検討を行った。対象は、本学附属病院における経口気管挿管の施行を前提とした全身麻酔下手術予定患者とした。被験者には、本研究の趣旨について説明文書を用いて説明し、本人の同意が得られない場合に不利益を受けることのないことなどを十分に説明したうえで実施した。対象者全員に、歯式、プラーク付着状態などの口腔内診査を行い、口腔ケア実施群(OC群)では、手術1週間前と手術前日にTBI、スケーリング、歯面研磨を行った。また、対象者全員から手術当日の起床直後の唾液1mlを採取した。抜管した気管チューブ及び唾液由来口腔細菌はVortex mixingし、遠心分離により付着細菌を回収し、5%ヒツジ血液寒天培地およびMitis-Salivarius(MS)寒天培地に藩種し、培地に生育したコロニー数を計測した。その結果、OC群では、非実施群(NOC群)と比較して気管チューブに付着した総細菌数およびレンサ球菌数が有意に低かった。一方、チューブに付着する総細菌数・口腔レンサ球菌数と唾液中のそれとはいずれも有意な相関関係が得られなかったことから気管チューブへの付着細菌数と唾液中の細菌数とは関連しないことが示唆された。 さらに、気管チューブに付着しやすい菌種を検討し、菌株を用いて気管チューブへの付着能について検討を行った。その結果、S.mutansおよびS.sobrinusが他の口腔レンサ球菌に比べて気管チューブに対する付着能を有していることが示唆された。この結果をもとに気管チューブサンプルおよび唾液サンプル中のS.mutans、S.sobrinusの検出率をNOC群とOC群間で比較したところ、OC群ではNOC群に比べて、特にS.mutansにおいて検出率が低かった。
|