研究課題/領域番号 |
26463076
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
三上 俊成 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (40405783)
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研究分担者 |
熊谷 章子 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (10286594)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 顎関節症 / 病理検査 / 液状検体 / 遺伝子検索 |
研究実績の概要 |
26年度は顎関節症患者に関節洗浄を施した際の洗浄液を遠心分離により細胞成分と液体成分に分け、関節局所の病態を把握するために、形態分析とタンパク発現の分析を同時に行うための手技の確立を試みた。顎関節症患者の関節洗浄液には炎症の影響により強い粘稠性を伴う場合があることが予め分かっていた。また、年間に採取可能な洗浄液の件数も限られていたことから、分析手技の確立には嚢胞患者17例から採取した嚢胞内容液を用いた(岩手医科大学倫理審査委員会承認番号01201)。洗浄液中の細胞成分はCell Block Tissue Array標本を作製して鏡検下で形態観察を行った。嚢胞内容液は細胞成分を含み平均約0.5mlを採取することができ、関節洗浄液と同様に粘稠性もあり、膿汁様や血液の混在したものも多かった。採取後のタンパク分解を防ぐためにprotein inhibitorを加え、適宜PBSで希釈してサンプルの粘稠性を和らげた。粘稠性が低い場合にはELISA法によりIL-6の定量が可能なサンプルもあった。しかし、種々の濃度に希釈しても粘稠性が残った場合はタンパク分析が困難だった。 当初は洗浄液中に含まれる滑膜細胞を初代培養してPCR法により遺伝子発現を調べると伴に、タイムプラス撮影で形態観察を行う予定であった。しかし、次世代シーケンスによるトランスクリプトーム解析を行った方が、炎症関連遺伝子の発現を網羅的に検索可能であり、将来的にも発展性があると考えた。そこで実際に関節洗浄液を採取して初代培養する前に、Cell Block Tissue Array標本を想定してパラフィン包埋した細胞から抽出したtotal RNAと、初代培養を想定して通常の培養細胞から抽出したtotal RNAを用いてトランスクリプトーム解析を行い、網羅的遺伝子発現解析のための解析フローを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度は17例の患者から採取した液状検体を細胞成分と液体成分に分け、それぞれ形態観察とELISAによるタンパク分析を同時に行う手技を確立した。しかし、炎症の強い病変部から採取した液状検体では粘稠性が高く、PBSで種々の濃度に希釈してもタンパク分析が困難な検体が多かった。そのため、洗浄液中の細胞成分の観察は可能であっても、液体成分を用いてタンパク分析を日常検査として行うことは困難であると考えた。本研究では、関節洗浄液を用いた顎関節症の分子細胞レベルでの総合的診断システムの構築を目的としている。他の分析方法について検討した結果、次世代シーケンスによる網羅的遺伝子解析が本研究における基礎実験部分でも、診断システムの構築のためにも有用ではないかと考えた。 次世代シーケンスを用いた遺伝子解析フローを確立するために、既存の培養細胞とパラフィン包埋組織からtotal RNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行った。パラフィン包埋組織ではホルマリン固定により遺伝子が断片化していたため、PCRやダイレクトシーケンスで200bpを超える塩基配列の解析は困難であったが、次世代シーケンスではr-RNAを除去することで十分に解析可能であった。 顎関節症の分子細胞レベルでの総合的診断システムの構築にあたり、液体成分の解析は困難であったが、それにかわる新たな解析方法の目処が立ったため、研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は患者の関節洗浄液を用いて滑膜細胞の初代培養を行い、次世代シーケンスを用いたトランスクリプトーム解析により網羅的遺伝子解析を行う。実験計画の中で予定していたとおり、滑膜細胞に炎症性サイトカインを添加した場合の反応性や、結晶性関節炎を惹起するリン酸カルシウム(ピロリン酸カルシウム、尿酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト)、滑膜軟骨腫症で発現しているBMP-2、アグリカン、Type II コラーゲンなどを添加し、それぞれの物質に対する滑膜の反応性について、分子生物学的な検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
顕微鏡用培養システム(東海ヒット INUBG2SF-WELS, 2,160,000円)を購入して培養細胞のタイムラプス撮影を計画していたが、この方法では生きた細胞を経時的に観察できる反面、タンパクの発現などを調べることは出来ない。形態観察のみを行うより、患者サンプルを初代培養した後、遺伝子の網羅的発現解析を行った方がより多くの細胞情報を得られ、顎関節症の分子細胞レベルでの総合的診断システムの構築に有用であると考え、購入を取りやめた。これにより、26年度に新たに行ったトランスクリプトーム解析で使用した受託解析料金との差額により、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
滑膜細胞(あるいは線維芽細胞)に対し種々の炎症性サイトカインや、結晶性関節炎を惹起するリン酸カルシウム(ピロリン酸カルシウム、尿酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト)、滑膜軟骨腫症で発現しているBMP-2、アグリカン、Type II コラーゲンなどを添加し、添加前と添加後の遺伝子発現の違いをトランスクリプトーム解析するのに用いる。
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