平成26年度終了時までに、顎関節症患者の顎関節洗浄液中に含まれる細胞成分からホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)切片を作製し、形態観察による病理診断法(急性炎症、慢性炎症、顎関節疾患との鑑別など)を検討してきた。平成27年度には、より詳細な病態把握のためには関節洗浄液中の細胞成分を用いた遺伝子解析が有用と考え、FFPE切片からの遺伝子抽出法について検討した。それにより、FFPE切片からマイクロダイセクションまたはマクロダイセクションで回収した微量サンプルからDNA/RNAを抽出し、次世代シーケンスで解析する方法を確立した。また、従来のホルマリン固定ではなくQiagen社のPAXgene tissue containerを用いた検体固定法を用いることで、細胞切片の形態観察と同時に、遺伝子の断片化の少ない良質な遺伝子抽出が可能であることも確認した。平成28年度は本研究の最終年度であり、一連の研究結果をもとに口腔外科の臨床歯科医(研究分担者)と協力し、顎関節洗浄液による「分子細胞レベルでの総合的診断システム」について考え、実際に臨床応用する場合に起こりうる問題点についても考慮して実際の導入に向けた検討を行った。 ホルマリン固定では遺伝子の断片化を防ぐためになるべく短い固定時間とし、PAXgeneではcontainerに含まれる固定液が少ないことから、遠心操作によりなるべく洗浄液を除き細胞成分のみを回収して固定する必要があった。そのため、顎関節洗浄後にそれらの作業を速やかに行う外来の体制作りが必要と考えられた。検査の再現性を高めるためには、遺伝子抽出操作の手技の標準化も必要と考えられた。遺伝子のデータ解析は複雑であるため、我々が開発した遺伝子解析のためのPC用OS(DIAGNO Linux)を用い、遺伝子発現解析や遺伝子多型検索を行うための一連の解析フローを作成した。
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