本研究課題の最終年度は、主に症例を拡大して解析モデルを作成し、様々な顎偏位症例の顎骨内応力解析を行った。また、顎偏位形態と顎骨内応力分布の関連について検討し、変異の増悪パターンの考察を行なった。顎偏位を伴う顎変形症例においても、咀嚼筋の筋力や咬合力、咬合接触状態が異なることから多様な応力分布を示すことが予想されたものの、解析パターンを広げることで顎骨内応力の分布が一定の傾向を示すことが示された。すなわち、咬合接触状態よりも咬合平面傾斜の有無が、咀嚼筋の作用が主に下顎骨体部への波及に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、成長が終了した、つまり顎骨形態が安定化した後も咀嚼筋による応力分布の不均衡は存在していることが示された。これは顎偏位症例においては永続的に顎骨に不均一な力が作用している可能性を示しており、数値力学上は長期的に顎関節症状や過重負担を受ける歯と歯根膜への障害が懸念されることが明らかとなった。また、顎骨形態の変化が大きい成長期における左右の不均一な応力分布は偏位を増悪することが考えられるため、咬合平面傾斜を伴う交叉咬合のような不正咬合は可及的早期に治療を行うことが、顎偏位増悪の回避に有効であることが容易に推測できる。 本研究結果から、顎偏位の増悪が予想される咬合平面傾斜を伴った不正咬合は早期治療を行う必要があることが明らかとなり、成長前期での矯正歯科治療の意義が大きいことが示された。また、未治療の顎偏位症例においては長期的に咀嚼筋による力学的な作用が常時存在する可能性があることから、外科的矯正治療を含む顎骨の形態を整えることが重要であることが明らかとなった。
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