研究課題/領域番号 |
26463096
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北原 亨 九州大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (00274473)
|
研究分担者 |
湯浅 賢治 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (40136510)
飯久保 正弘 東北大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (80302157)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 筋機能MRI / MRS / 咀嚼筋疲労 / 顎変形症 |
研究実績の概要 |
咀嚼筋疲労や痛みは開口障害や咀嚼障害,慢性疼痛を引き起こし、医療のエンドポイントである「生活の質の向上」に大きく関わっていることが認識されるようになった。また、咀嚼筋疲労は,様々な咀嚼障害として、顎変形症等の患者に多く認められることが知られているが、患者の訴える疲労感や疼痛の強さなどから判断され、客観的かつ定量的な評価法は乏しく、生理学的情報と生化学的情報が統合された診断法の確立は急務であるといえる。 仮説1:顎変形症患者を対象とした筋機能MRIにおいて、持続咬みしめ前後の咬筋の横緩和時間(T2時間)は一過性に上昇する。 仮説2:顎変形症患者を対象とした31P-MRSにおいて、持続咬みしめ前後の咬筋中のリン酸化合物のうち、PCr(クレアチンリン酸)は一過性に減少し、 Pi(無機リン)は一過性に増加する。 仮説3:顎変形症患者と健常者の間で,横緩和時間(T2時間)および31P-MRSよる疲労関連物質(PCr,ATP,Pi)の信号強度には,有意差が認められる。 平成26年度は、研究分担者の所属する撮影施設設置の1.5TのMRI装置(Intera Achieva、フィリップス社製)を用いた測定誤差の検証を筋機能MRI(T2時間)およびMRS(PCr, Pi)に関して実施し、併行して、共分散行列を用いた80%検出力を設定したサンプルサイズを算出するため、データの取得を予備的に行った。病院臨床研究倫理審査委員会に本研究を申請し、対象患者の選定や説明と同意、診断•評価など研究手法の妥当性の受審の準備を進め、倫理審査委員会承認後は、非介入の観察研究の開始予定である。 患者にとって侵襲のない検査法である筋機能MRIおよびMRSを用いて,生理学的情報・生化学的情報を同時に取得し比較することができる,分子イメージングによる新たな画像診断手法は妥当であるかを検証し,咀嚼筋疲労診断法を確立することは重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主要エンドポイントであるT2時間、PCr、Piを対象とした測定誤差の検証では、撮影間隔を6か月以上設けた2回の測定値を比較することとした。2回の測定結果間には有意差は認められなかった。 31P-MRS取得に関しては、前述したMR装置および直径8cmのサーフイスコイルを用いて、特定条件でパルスを加えFID信号を測定加算した。得られたFlD信号をフーリエ変換し、位相補正を加えることにより31Pスペクトルを得た。MRS検査プロトコールは、1)かみしめ前の安静時に信号取得、2) かみしめ(30% Maximum Voluntary Contraction (MVC))中に信号取得、3) かみしめ終了直後より4回信号取得(回復時1 ・回復時2・回復時3・回復時4 )。1回の撮像時間は4分47秒であった。安静時、かみしめ時、および各回復時の31P-MRSにおいてPCrおよびPiを計測した。これらの値よりそれぞれの回復率を求めることとした。回復率(% ) =各時期の信号強度/安静時信号強度。 31P-MRS中のスペクトルの各ピークの化学シフトは分子の種類を表しており、ピークの面積はその存在量を反映しているため、咀嚼筋中のリン酸エネルギー代謝の評価として、 PCrとPiのケミカルシフトを利用した筋細胞内pH推定式を利用して咬筋pH推移を捉えることとした。
|
今後の研究の推進方策 |
近年、咬筋の痛みに対して、超音波装置やMR装置を用いた画像評価の報告は散見されるが、咀嚼筋疲労の客観的な診断法はいまだ確立されていないのが現状である。患者にとって侵襲のない検査法であるmfMRIおよびMRSを用いて,比較的断面積の小さい咀嚼筋において、分子イメージングによる新たな画像診断手法が妥当であるかを検証し、咀嚼筋疲労診断法確立をめざす。 本大学病院の顎変形症患者を対象に、撮影協力施設である他病院研究協力施設で臨床研究のための検査をしていただくプロセスが整備された後、資料取得は、共分散行列による80%検出力備えるサンプルサイズを算出の後、その数に達し次第終了とする。 31P-MRSデータ採およびMRIデータの収集は、臨床研究に参加していただく顎変形症患者の便宜を考える上で同一日採得を考えており、40分ほどの休息を挿むことにより研究遂行上の支障はないと考えている。臨床研究に参加すると交通費がかかったり、勤めを休んだりする必要があることから、被験者の方に経済的負担を強いるときがあるため、これらの負担を軽減するために支払われる「負担軽減費」の利用を考えている。 また、下肢で既に報告されている運動前後のT2値変化ではあるが、咀嚼筋全般では未確認であり、断面積の比較的小さい咀嚼筋活動の指標となりうるかについては検討の余地がある。本研究では、持続かみしめ前後における咀嚼筋(咬筋)のT2値の変化を算出し、咀嚼筋活動の定量化に対する筋機能MRIの応用の可能性を検証する。 将来的には、筋機能MRIとMRSを用いた咀嚼筋の疲労の定量的測定法を、診断ならびに治療結果の評価に加え、さらには矯正歯科領域の不正咬合という病態の解明を、生化学的側面から展開したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、研究対象患者の選定や説明と同意、診断および評価など研究手法の妥当性検証のために、病院臨床研究倫理審査委員会の受審の準備を進め、並行して主要エンドポイントであるT2時間、PCr、Piを対象とした測定誤差の検証に関して、撮影間隔を6か月以上設け検証作業を進めてきた。 倫理審査委員会承認後の、非介入観察研究の開始に伴う被験者の負担を軽減のための「負担軽減費」の利用開始が平成27年度となったため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
臨床研究に参加すると交通費がかかったり、勤めを休んだりする必要があることから、被験者の方に経済的負担を強いるときがあるため、これらの負担を軽減するため支払われる「被験者負担軽減費」の利用に、次年度使用予算を充てる。 病院臨床研究倫理審査委員会承認の説明書を用い、臨床研究のための筋機能MRIおよびMRS検査を受けていただくことに同意を受けた顎変形症患者の集積に勤め、咀嚼筋疲労観察対象の下顎後退症と診断された成人男女患者に関しては、1か月に一人のペースを目標とする、また随時分析定量を進める。
|