研究課題/領域番号 |
26463119
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
櫻井 敦朗 東京歯科大学, 歯学部, 講師 (90431759)
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研究分担者 |
新谷 誠康 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (90273698)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 口腔内細菌叢 / 齲蝕 / 口腔疾患 |
研究実績の概要 |
小腸の上皮組織に炎症を引き起こす自己免疫疾患であるセリアック病(Coeliac disease)患者やアトピー線皮膚炎、細菌性膣炎患者など様々な疾患において罹患局所の細菌叢からは、健康なものではあまり検出されない菌種が検出されたり、健康なものより高頻度で検出される菌種があるという。ヒトの各組織でそれぞれ構成されている細菌叢は健康な状態(ホメオスタシス)の維持と密接に関わっており、こうした細菌叢が撹乱されることは何らかの疾患発生に大きく影響すると考えられている。こうした細菌叢に関する研究が進む中で我々は、今後齲蝕の病原性を研究する場合においても、ミュータンスレンサ球菌にのみ着目して研究を進めるのは不十分であると考えた。そこで、口腔内の細菌叢のバリエーションが、齲蝕や、低年齢において生じる哺乳齲蝕にどのように関与しているかについて解析を進めている。本研究では、小児において、齲蝕を中心とした口腔疾患への感受性が低い細菌叢モデルを決定、提示し、さらに、低年齢のうちにその細菌叢モデルを確立するための手法について検討したいと考えた。 所属する大学の診療科に来院する患児のうち、主に7歳未満の小児約160人を対象として、保護者に対する十分な説明と同意の上で歯面バイオフィルムをswab により採取し、細菌ゲノムを抽出した。次に細菌の16S rRNA 遺伝子の一部配列の増幅を行い、高速シークエンサーRoche 454 GS FLX+ System によって遺伝子シークエンスを行った。得られた配列はウェブ上のデータベースと照合して細菌種を推定し、齲蝕の多い小児、齲蝕のない小児の間で比較を行った。現在までに約30人について遺伝子配列データを取得することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の申請を行うにあたって、口腔内細菌叢はレンサ球菌をはじめとするFirmicutes 門に含まれる細菌種の比率が多いことを述べた。Fiemicutes 門細菌は固い菌体壁を有しているため、これを完全に破砕することが適切な細菌叢の把握に必須であり、これまで報告されている研究の中には、この点を見落としているものが少なくなかった。本研究ではこうした細菌種についても確実に細菌由来DNAを採取できる実験条件を確立して、DNA抽出作業を行った。得られた試料の一部において遺伝子配列データの取得を行ったところ、Firmicutes門細菌の検出には問題がなかったものの、その他の細菌種の検出がこれまでの報告に比べて少ないものがあった。そのため、一部サンプルの保存条件について、手順の変更を要している。しかし、本研究の遂行に最も重要なサンプル数の確保、細菌由来DNAの抽出は患児本人や保護者の協力も得られ、順調に進んでいる。今後もサンプル数の拡大を図りながら、遺伝子配列データの取得を行い、予定通り平成27年度以降の研究内容を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の申請書記載の通り、平成27年度は得られた遺伝子配列データをもとに、口腔の恒常性を担保する菌種と齲蝕発生に関与しうる菌種の選定と、一部の菌種を用いてミュータンスレンサ球菌によるバイオフィルム形成、酸産生能に及ぼす影響を検討したい。また、本年度も今後もサンプルの採取、遺伝子配列データの取得を引き続いて行う予定である。 まず、得られた遺伝子配列データからウェブ上のデータベースと照合して細菌種を推定する。その上で、齲蝕の多い小児、齲蝕の少ない小児に共通して多く含まれる菌種、いずれかに特異的に含まれる菌種のピックアップを行う。ピックアップされた菌種については、単離培養の可否で分類した上で、口腔の恒常性の維持能、または齲蝕等の口腔疾患の発生への病原性を有するかを解析する。 培養可能な菌種:ミュータンスレンサ球菌やL. fermentum を代表とした乳酸桿菌属細菌など、すでに齲蝕発生への関与が指摘されている菌種に加え、本研究において口腔の恒常性を担保しうる菌種、または齲蝕発生に関与しうるとピックアップされた菌種との相互作用を解析する。具体的には、複数菌種存在下で培地中やヒト唾液中での凝集、ハイドロキシアパタイトやガラス表面上における菌増殖や歯面付着能試験、共焦点レーザー顕微鏡・蛍光顕微鏡を用いた菌凝集、バイオフィルム形成の観察を行う。 培養不可能な菌種:齲蝕の多い小児、齲蝕のない小児の各細菌叢の中で、検出頻度に大きく偏りのある菌種を選択する。遺伝子配列が一部でも知られている菌種については、Blast 検索を行って相同性の高い遺伝子からその機能を推定し、既知の齲蝕原性菌の持つ因子と相互作用を持つ可能性があるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で得られた試料の一部を用いて遺伝子配列データの取得を行ったところ、これまで実験手法の問題から検出率が過小評価されることがあるとされていたFirmicutes門細菌についてはは問題がなかったものの、その他の細菌種の検出がこれまでの報告に比べて少ないものがあった。そのため、一部サンプルの保存条件について、手順の変更を要した。そのため、平成26年度の遺伝子解析に使用する予定の一部費用を平成27年度に持ち越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度問題になったサンプルの保存、細菌由来DNAの抽出条件についてはすでに良好な結果を得られるようになり、平成27年度は、、一部平成26年度に行う予定だったサンプルも含め、遺伝子解析に関する作業を続行する予定である。本研究の遂行に最も重要なサンプル数の確保、細菌由来DNAの抽出は患児本人や保護者の協力も得られ、順調に進んでいる。今後もサンプル数の拡大を図りながら、遺伝子配列データの取得に並行して、予定通り平成27年度以降の研究内容を進める予定である。
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