小児がん(白血病など)は、手術療法・化学療法・放射線療法・移植法などの治療法が進歩したことで予後生存率が上昇し治療後の長期生存が可能となった。しかしその一方で、小児がん経験者の、小児期のがん治療の副作用と考えられる二次的影響(晩期合併症)もさまざまな領域で明らかになってきている。口腔領域での小児がん治療の晩期合併症としでは、石灰化障害、矮小歯、欠如歯、歯根の短根化などが報告されている。臨床治療の化学療法では多剤併用療法が使用されるため、個々の薬剤の歯の形成に対する影響についていまだ不明なことも多い。本研究では抗腫瘍薬の歯の形成に及ぼす影響を調べるために、マウスを用いて歯根形態の変化を解析した。 【方法】生後12日齢の歯の形成期のマウスを用い、対照群には生理的食塩水、実験群にはシクロホスファミド(CY)100mg/kgを投与した後、生後27日まで飼育し、臼歯の歯根形成を観察した。下顎第一臼歯歯根の3次元的の形態をマイクロCT装置を用いて撮影し、3D立体構築画像に変換して分析した。計測項目は、歯根長および根尖孔の面積である。計測にはラトック社の解析ソフトおよびImageJを用いた。 【結果】歯根長はCY投与群では伸長が阻害され、根尖孔が早期に閉鎖する傾向を示した。また免疫染色結果からCYによるヘルトウィッヒ上皮鞘(HERS)の形成阻害が認められた。 【考察】CYが歯根形成において伸長を抑制し、根尖を早期に閉鎖させたことから、臨床のエックス線写真でみられるV字型歯根の原因となる可能性が示された。またCYによるHERSの形成阻害を認めたことも歯根長や形態に影響を与えることが示唆された。今後小児がん経験者は増加すると予想される。歯の形成不全のリスクを持つ小児がん経験者に対して、歯の晩期合併症についての情報提供や継続した歯科健診などのフォローアップが重要になると考えられた。
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