ストレス負荷と同時にチューイングさせることで、全身性のストレス性応答を緩和できる可能性が示唆されているが、その脳内メカニズムに関しては全く不明であった。そこで、快・不快情報の中枢である扁桃体と生体のホメオスターシスに大きな役割を果たす上位中枢である視床下部室傍核のpERK1/2の発現を指標に解析し、脳内のチューイングによるストレス抑制機構を解明することとした。 平成26・27年度は、カイニン酸を用いて扁桃体を破壊したところ、ストレス下でのチューイングは三叉神経からの入力増強を誘導し、扁桃体から室傍核に対する投射を制御していることを明らかにした。そこで平成28年度は、主に抑制性の神経伝達物質であるGABAに着目し,マイクロダイアリシス法を用いて、扁桃体に対してタスク時のGABAの容量を継時的に計測した。その結果、扁桃体外側基底核(BLA)ではストレスに応じてGABA量は上昇したが、驚くべきことにストレス下でのChewingはさらに特異的にBLAでのGABA 量をストレス単独と比較して有意に上昇させていた。 平成29年度は、扁桃体に対してGABAの選択的阻害剤であるAnti-GABA-transporter1-saporine(anti-GAT1-sap)を用いて、GABA作動性ニューロンの選択的破壊を行い室傍核でのpERK1/2の発現を検討した。その結果、カイニン酸での破壊と同様にチューイングによりストレスによるpERK1/2の減弱効果が抑制された。すなわち三叉神経からの入力の増強は、扁桃体でのGABA量を増加させGABAergicな機能を亢進し、CeAへの抑制性入力を増強させ、いわゆるGABAergic inhibitory systemを強化し、各ストレス応答関連脳領域でのストレス応答減弱効果を制御している可能性が考えられた。
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