研究課題/領域番号 |
26463125
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
小松 知子 神奈川歯科大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (20234875)
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研究分担者 |
李 昌一 神奈川歯科大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (60220795)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 活性酸素 / 歯周病 / プロテオーム解析 / ダウン症候群 / 電子スピン共鳴法 |
研究実績の概要 |
本研究の初年度としては,歯周初期治療が終了し,本研究内容を説明した上で十分な同意が得られたダウン症候群患者を対象に以下の研究に着手した.初回およびその約1ヶ月半後,さらにその約3ヶ月後に活性酸素による抗菌作用を有する低濃度の次亜塩素酸水を用いた全顎のスケーリングおよび洗浄を行った.その後,各回ともに次亜塩素酸水から生じた過剰な活性酸素を中和し,さらに口腔内あるいは生体内の過剰な活性酸素を除去するため抗酸化作用を有する水素水を用いてポケット内を洗浄した.この抗菌・抗酸化併用療法の効果を様々な視点から評価した.歯周組織検査,位相差顕微鏡を用いたポケット内の細菌の変化,Real time PCR法による歯周ポケット内の歯周病原菌の変化を観察した.さらに電子スピン共鳴法を用いて,唾液中の抗酸化能を測定した.その結果,唾液中の活性酸素消去能は,いずれの症例においても初回治療前と3回目の治療前の評価を比較したところ,位相差顕微鏡像でポケット内の細菌数に減少傾向がみられた症例においては消去能が低下していた.これは生体における細菌の減少に対する適応反応がみられた可能性が考えられた.また,Real time PCR法によって歯周ポケット内のP. gigivalis,T. denticola,T. ForsythiaおよびP.intermediaの総菌数に対する割合をみたところ,いずれの症例においても,初回治療前と比較して3回目治療前の方が,すべての菌で減少した. 従って,本年度は本療法の効果を唾液の抗酸化能の変化として捉えることができ,その効果を歯周病原菌の定量で評価できたことは,最終的に本研究の目的である歯周病ひいては生体制御における酸化ストレス機構の解明につながると考えられる.さらに,治療前後の唾液プロテオーム解析を行うことで歯周病の早期診断,予防に役立つ新たなバイオマーカーを追求することが可能であると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に掲げていた全唾液,耳下腺唾液中に存在する総タンパク量および抗菌物質あるいは抗酸化物質であるヒスタチン,ミエロぺルオキシダーゼ,リゾチーム,ラクトフェリン,PRPの含有量の測定に関しては唾液採取量が十分得られない症例が多く,サンプルの採取が困難なため測定できない状況である. 一方で,症例数は十分ではないが,全顎スケーリング,ポケット内の洗浄による治療効果を唾液中の抗酸化能の測定や歯周組織検査などの臨床的アプリケーションなどで評価できたことは当初の計画通りである.さらに当初の計画では次年度に予定していたReal-time PCR法による歯周ポケット内より採取したプラーク中の歯周病原菌の定量を行い,その変化をみることも行えた.今後は症例数を増やし,ダウン症候群患者のみでなく,高齢者,健常者でも検討を行う必要があるが,概ね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
唾液中の総タンパク量および各種抗菌・抗酸化物質の含有量の測定は唾液サンプル量が十分得られないため,定量するタンパク質を絞り検討していく.貴重な唾液サンプルを有効に使用して,本研究の目的である歯周病とその治療における唾液成分の抗酸化能とプロテオームの変化を捉え、唾液における活性酸素産生または抗酸化能に携わっているタンパク質の正体を明らかにするためには,今後も治療前後の臨床評価(歯周ポケット測定など)を確実に行い,治療前後の唾液の抗酸化能の測定およびプロテオーム解析に重点をおく必要があると考える. 現在使用可能な超音波スケーラーおよびチップ,ハンドピースなどの数が不足しており,滅菌などが間に合わないことが,症例数の増加に影響していると考えられる.必要な機器,器具の数を増やし,対象患者の増加を図り,より信頼性の高いデータの蓄積を行う. 当初は1ヶ月間隔で治療効果を評価していく計画であったが,被験者の負担や臨床の実態から考え,評価の間隔を2-3ヶ月程度の長いスパンが適当と考えている.データを整理して,再検討してくなかで,必要があれば見直していく予定である.長期にわたり各症例の治療効果と唾液の抗酸化能,プロテオーム解析を行い,検討していくことで,包括的,統合的に歯周病における唾液抗酸化成分の役割を解明でき,早期診断につながるバイオマーカーの発見が可能となり,将来の予防的医学に重要な意味を持つと考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は本研究の初年度にあたり,予備実験も多く,実際の被験者(症例)数が少なく,治療時に必要とされる物品などの使用が少なかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,さらに症例数を増やす予定であり,それに伴い試薬などの物品の購入および超音波スケーラーの増設と付属器具などの購入を予定している. 採取した唾液の遠心分離に使用している遠心分離機の老朽化が認められるため,新規購入を検討中である. サンプル数の増加に伴い,サンプル処理,測定を迅速に行うため,技術者の雇用を検討中である.
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