研究課題/領域番号 |
26463125
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
小松 知子 神奈川歯科大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (20234875)
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研究分担者 |
李 昌一 神奈川歯科大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (60220795)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 活性酸素 / ダウン症候群 / 歯周病 / 唾液タンパク質 / 電子スピン共鳴法 / プロテオーム解析 |
研究実績の概要 |
初年度から着手しているダウン症候群患者における超音波スケーラーによる歯周療法の効果をさらに対象となる被験者を増やし,検討を行った.その結果,初年度とほぼ同様の結果を得た.本結果は第16回日本抗加齢医学会にて発表予定である. また,当初の計画では高齢者も対象に含めていたが,実際の臨床では全身疾患を合併している高齢者,要介護高齢者の歯周病管理も視野にいれて考える必要がある.重度の知的障害を伴うダウン症候群患者や認知症などを伴う高齢者では超音波スケーラーによるイリゲーションなどが困難なケースも多く,本年度は研究計画を見直し,要介護高齢者を対象に口腔清拭による口腔ケアにおける効果も評価の対象に追加した.その結果の一部を第27回日本老年歯科医学会学術大会にて報告する予定である. 唾液タンパク質の含有量の検討は初年度の実施状況報告書に記載した通り,安静時の全唾液における総タンパク質量に対するヒスタチン含有量の検討にターゲットを絞り行なった.唾液中の総タンパク質濃度に対するヒスタチン 5の濃度比率は若年群ではダウン症候群患者群と健常者群で有意差はなかったが,成人群ではダウン症候群患者群で有意に減少した.ダウン症候群,健常者群ともに若年群に比較して成人群で有意に減少した. プロテオーム解析では,成人健常者群に比較してダウン症候群患者群で発現が増加した主なタンパク質は,酵素,シャペロン, 移送に関連したタンパク質であった.一方,ダウン症候群患者群で減少したタンパク質は,免疫グロブリン,消化,脱水素酵素, 移送, 結合に関連したタンパク質であった.これらの結果からダウン症候群では免疫応答が低下し,組織におけるタンパク分解が亢進し,細胞外マトリックスにおけるリモデリングが阻害されている状態が考えられた.本結果については第33回日本障害者歯科学会学術大会にて発表予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ダウン症候群の被験者は徐々に増加し,歯周療法の効果を唾液中の抗酸化能の測定と歯周組織検査,全身状態から評価することは継続的に実施されている.さらに歯周ポケット内より採取したプラーク中の歯周病原菌のReal-time PCR法による定量を行い,その推移を継続的に捉えることも順調に進んでいる.しかし,当初対象者として挙げていた高齢の被験者が少なく,十分なデータが得られていない.今後,健常な若年者,高齢者で検討する必要がある.また,新たに要介護高齢者を対象に加え,日常の幅広いニーズに対応した方法での検討を加えたため,当初の計画に遅れを生じている.また,初年度の研究実績で述べた通り,耳下腺唾液採取に協力が得られる者が少なく,また全唾液の採取量が十分でない被験者が多いことから,初年度滞っていた唾液タンパク質の含有量の検討は安静時の全唾液における総タンパク質量に対するヒスタチン含有量の検討にターゲットを絞り行なった.しかしながら可能であれば,他のタンパク質における検討も行いたいと考えている.プロテオーム解析は初回の状態の把握は終了したが,経過が追えてない被験者があり,歯周療法後の解析は行えない可能性があり,その対応策を検討中である.
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今後の研究の推進方策 |
最終的な研究目的である「若年,高齢の健常者およびダウン症候群患者における唾液成分の活性酸素産生とプロテオームの変化という視点から歯周病を捉えることで, 唾液における活性酸素産生に携わっているタンパク質の正体を網羅的に捉えることができる. さらに,口腔および全身に関する臨床データを統括することで, 歯周病ひいては生体制御における唾液タンパク質成分の酸化ストレス機構を包括的に解明することにつながる. さらに,歯周病の早期診断,予防に役立つ新たなバイオマーカーを追求する.」を達成するために,最終年度も引き続き,被験者の増加を図り,より信頼性の高いデータの蓄積を行う.また,初年度から開始している歯周療法に加え,本年度から新たに開始した口腔清拭による方法においても,同様に処置前後の臨床データと唾液の抗酸化能,唾液タンパク質ヒスタチンの濃度の測定などのデータの蓄積を継続する.さらに唾液タンパク質のプロテオーム解析においては,MS/MSデータより発現したタンパク質の同定および生物学的情報を NCBInr または Swiss-Prot データベースを駆使して行う予定である.ただし,プロテオーム解析は初回の状態把握は終了したが,経過を追えていない被験者があり,その対応については検討する必要がある. また,十分な唾液量が採取可能であればヒスタチン以外の抗菌物質あるいは抗酸化物質であるミエロペルオキシダーゼ,リゾチーム,ラクトフェリン,PRPの含有量の測定,分析を行いたいと考えている.最終年度にあたり,これまでに得られた成果を学会に発表し,論文として報告する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の進捗助教としてはやや遅れがあり,特に当初の計画に加えた新たな取り組み対して,次年度も継続的に取り組む必要がある.今後さらに試薬など継続的な購入が必要となるため,最終年度の予定の支給額では不足が生じる恐れがあり,計画的な使用を考えた必要なため.
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は,さらに症例数を増やし検討する予定であり,また新たな方法で開始した対象者における評価を行う必要があるため,それに必要とする試薬などの物品の購入を予定している.採取した唾液の遠心分離に使用している遠心分離機の老朽化が認められるため,新規購入を検討中である.サンプル数の増加に伴い,サンプル処理,測定を迅速に行うため,技術者の雇用を検討中である.
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