研究課題
循環器疾患と歯周病との間には深い関連性があるといわれてきている。近年,高血圧症や糖尿病などの全身疾患のリスクファクターとして歯周病が関与している可能性が疫学的に証明され,ペリオドンタル・メディスン;歯周医学という概念が広がりつつある。わが国の代表的な死因疾患中の心疾患・脳血管疾患や糖尿病合併症である循環障害は血管内皮細胞の機能低下を伴う動脈硬化性疾患であり,これらの循環器疾患が歯周病菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg菌) の感染により増悪するという疫学的報告がある。これに加え,Pg菌が血行性に全身に伝播することにより,末梢性に多形核白血球が活性酸素を遊離しているという報告もあるが,これらPg菌感染と活性酸素と循環器疾患との因果関係は明確になっていない。一方,活性酸素は生体内に産生系と消去系とが同時に存在し,バランスを保っている。歯周病や循環器疾患ではこのバランスが破綻し病態が悪化すると考えられている。このため活性酸素を除去することのできる抗酸化物質の効果が注目されている。本研究課題では,口腔と全身の血管反応を主たる測定系として抗酸化作用の強い「抗酸化物質クルクミンを用いた歯周病治療戦略の可能性」の探求を目的として研究を行っている。本研究課題では,高血圧モデルラット(SHRSP),コントロール群,Pg菌を感染させた動物モデルを用いた実験を行っている。本年度は,1)摘出血管を用いた等尺性張力変化を指標とした血管機能の解析 2)Pg菌感染による歯槽骨吸収量の測定を行った。SHRSPでは血管弛緩反応が抑制され,この反応には活性酸素種の関与が確認された。現在,クルクミンの生体への投与方法や血中濃度などについて検討を重ねている。今後,抗酸化の観点から歯周病治療を検討していく予定である。
3: やや遅れている
高血圧モデルラットであり,酸化亢進モデルとしても知られている「脳卒中易発症性高血圧モデルラット(SHRSP)」,コントロール群,Pg菌を感染させた動物モデルを用いて実験を行っている。27年度以降は抗酸化物質であるクルクミンを経口摂取させたラットのPg感染による骨吸収量を測定し,高血圧症と歯周病の進行と抗酸化物質の効果を解析する。という予定であった。生体内投与後に血中濃度を測定する必要があると判断したため,その実験も並行して行うこととした。現在,投与方法と血中濃度の維持,その効果について検討を重ねている。コントロール群,SHRSP,Pg群ともに長期にわたっての飼育と管理が必要となるため,継続して実験を行っている。
実験は予定通りに推進していく。さらに,抗酸化物質を経口投与した際の血中濃度の経日的測定を行う予定を組み込んだため,濃度と投与方法が確定し次第,クルクミン投与群のPg感染による骨吸収量を測定し,高血圧と歯周病の進行と抗酸化物質の効果を解析する。また,下行大動脈を摘出し,等尺性収縮変化を指標とした検討も行い,全身的な酸化ストレスの解析を行う予定である。これらの結果を考慮し,抗酸化物質の全身適応により,循環器の障害(主に血管障害)が改善されるかどうかを評価する。最終的には,抗酸化物質であるクルクミンの歯周病治療への適応の可能性を検討する。歯周病への抗酸化物質の効果の確認を目標とし,臨床応用のエビデンス確立をゴールとして,上記実験を推進していく予定である。
本年度はクルクミンを用いた実験が完了していないため,試薬代の一部が持ち越しとなった。また出張旅費での支出が予定より少なかったため,次年度への持越しが生じた。
次年度以降も継続して実験を遂行していくため,実験動物,実験試薬,血液検査代,ガラス製品,プラスチック製品等の消耗品の他,学会発表のための旅費や論文校閲などに使用する予定である。
すべて 2017 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件)
Anatomical Science International
巻: 92 ページ: 112-117
10.1007/s12565-015-0324-8
Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition
巻: 58 ページ: 69-75
10.3164/jcbn.15-69.
Microbial Pathogenesis
巻: 92 ページ: 36-42
10.1016/j.micpath.2015.12.009.
Journal of Functional Foods
巻: 21 ページ: 223-231
10.1016/j.jff.2015.12.008
Biomaterials
巻: 76 ページ: 292-301
10.1016/j.biomaterials.2015.10.077
International Journal of Analytical Bio-Science
巻: 3 ページ: 63-72
Journal of Photochemistry and Photobiology B: Biology
巻: 151 ページ: 48-53
10.1016/j.jphotobiol.2015.07.001.