研究課題/領域番号 |
26463148
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研究機関 | 松本歯科大学 |
研究代表者 |
吉成 伸夫 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (20231699)
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研究分担者 |
小出 雅則 松本歯科大学, 総合歯科医学研究所, 講師 (10367617)
武藤 昭紀 愛知学院大学, 歯学部, 助教 (50549433) [辞退]
田口 明 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (70243582)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 歯周炎 / 心臓血管疾患 / 老化 |
研究実績の概要 |
加齢に伴う生物学的老化は,心臓血管疾患(cardiovascular disease: CVD)の有力な危険因子である。しかし,生物学的老化とCVDの原因となる動脈硬化症の関連メカニズムは解明されていない。本研究では,急性炎症マーカーである血清アミロイドA(SAA),およびその受容体シグナルが血管老化に関与していると考え,1)ドナー年齢の違いによるSAA刺激下でのSAA受容体(TLR2),接着分子,炎症関連因子発現程度の違い,2)SAA刺激による老化関連遺伝子発現を解析することにより,SAAを介する歯周病から動脈硬化症への悪化機序から,生物学的老化へのメカニズムの詳細を解明することを目的とする。 平成27年度は,ドナーが27歳と81歳のヒト大動脈内皮細胞(HAECs)を使用し,長期培養を行い,老化指標のβ-gal染色,蛍光測定した。SAA受容体(TLR2),接着分子,炎症関連因子,老化マーカーのmRNA発現をリアルタイムPCR法にて測定した。詳細は以下のようである。 (1)HAECを専用培地で12穴プレートに播種し,10,20日間培養を行った。(2)HAECへのヒトリコンビナント SAA(hSAA)の添加:培養開始後,培地交換時(2日毎)に25μg/mlの濃度のhSAAを添加し実験群とした。また,無添加群は対照群とした。(3)SAA添加による SAA受容体,炎症関連因子の発現確認:(2)の細胞からmRNAを抽出,逆転写,cDNA変換,リアルタイムPCR法にてTLR2, ICAM1, VCAM1, MCP1の発現を測定した。(4)hSAA添加による老化マーカーの発現の確認:(3) と同様にmRNAを抽出,逆転写,cDNA変換後,p53,p16発現をリアルタイムPCR法にて測定,年齢毎の実験群と対照群で比較した。(5)β-GALは,細胞融解後,検出キットにて測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は,ドナーが27歳と81歳のヒト大動脈内皮細胞(HAECs)を長期培養し,SAA受容体(TLR2),接着分子,炎症関連因子老化マーカーのmRNA発現をリアルタイムPCR法にて確認し,老化指標のβ-gal染色,蛍光測定した。 その結果,β-gal染色では,培養10日から20日になると81歳ドナーの細胞で著明に染色性が増加した。TLR2の発現は,27歳の実験群では10日から20日に経過すると減少するのに対し,81歳の実験群では著明に増加した。SAA刺激による接着因子,炎症関連因子の動態については,ICAM1, VCAM1,MCP1ともに27歳の実験群では10日から20日に経過すると減少するのに対し,81歳の実験群では著明に増加した。老化マーカー遺伝子p16は,27歳と81歳の実験群ともに20日になると発現量が上昇したが,p53に関しては,81歳の実験群で経時的変化は認められなかった。 よって,高齢者の血管内皮細胞では老化現象が進んでおり,SAA刺激に対して炎症関連因子の発現が上昇することが判明した。しかし,老化マーカー遺伝子の亢進に関しては未だ疑問の残る結果となり,高齢者のドナーのHAECsを追加して研究を継続する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後,高齢者ドナーのHAECsを変更,追加して研究を継続する。ただ,その際に細胞の接触抑制が危惧されるので,90%コンフルエント以下の状態で継代する予定である。さらに,リアルタイムPCR法でのp53発現に関してはdissociation curveが2相になっており非特異的増幅が疑われるのでプライマーを再設計する。今回結果として提示できていないTERTに関しては,増幅の立ち上がりが遅いので,40サイクル以上に増幅回数を増やしてみる予定である。また,SAAに対する抑制実験が出来ていないので,shRNAからSAA抗体に変更して研究を遂行する予定である。 これでも高齢者ドナーのHAECsにおいて,著明な老化マーカー遺伝子発現が認められなかった場合,高齢期(生後10ヶ月)のApoEノックアウトマウスの大動脈から内皮細胞を採取して,材料をマウスの血管内皮細胞に変更して研究を行うこととする。高齢期ApoEノックアウトマウス大動脈内皮細胞は,SAA受容体を高発現していることを確認しているので,結果が出るものと推測される。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究の遅れからSAA抑制実験を遂行するに至らず,shRNA外注費用を使用していなかった。平成28年度,SAA抗体による抑制実験を施行するための抗体購入費用として繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
SAA抗体を購入して,SAA抑制実験を施行する。
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