臨床の場において、口腔内にStreptococcus mutansやStreptococcus sobrinusがそれほど存在していないにも関わらず、齲蝕が発症する児童に遭遇することがある。こうした児童においては、S. mutansやS. sobrinusの菌数は少ないが、存在しているこれらの菌株が、特に齲蝕を誘発する能力の高い菌株である可能性がある。我々はこの仮説に基づいて、まずS. mutansの臨床分離株について、強い齲蝕原性をもつ菌株かどうか判定する遺伝子検査法を以前開発した。この検査法は、S. mutansの非水溶性グルカン合成能と有意な関連を示している。今回、更にS. sobrinusについて、非水溶性グルカン合成能と関連を示すような遺伝子検査法を開発することを目的とした。 S. sobrinusは非水溶性グルカン合成酵素としてGtfIを持ち、gtfI遺伝子がこれをコードしている。小学生児童の口腔内から分離した46株のS. sobrinus株において、酵素活性を考える上で重要と考えられる領域における変異を探索した。その結果、開始コドン上流のSD配列や開始コドンから114bpまでのシグナルペプチドをコードする領域、1324~1350bpのcatalytic domainをコードする領域のいずれにおいても、変異を認める菌株は存在しなかったが、gtfI遺伝子3'末端側1/3を占めるglucan binding domainには比較的多くの変異が認められた。これらの変異の内、多くはサイレント変異であったが、うち、11の変異はミスセンス変異であり、そのうち特定の変異が見られた菌株で特に高い非水溶性グルカン合成能を示した。今回の臨床分離株中、この変異を認めた株は少数であったため、変異を認めなかった菌株との非水溶性グルカン合成能の差は統計学的に有意ではなかったが、gtfI遺伝子中のglucan binding domainをコードする領域における一部の変異が、S. sobrinus株のグルカン合成能の高低に関与している可能性が示唆された。
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