ヒト歯垢は約700種の菌種から構成されるバイオフィルムである。口腔バイオフィルム細菌が感染源となって心臓、血管、肺、肝臓、脳、腎臓にしばしば炎症疾患が引き起こされることが臨床的に報告されており、口腔衛生の重要性が注目されている。我々は動脈硬化誘発の感染源と目したヒト歯垢そのものの動脈硬化誘発能を解明するために、多種類の菌の混合体であるヒト歯垢および単一種の細菌としてStreptococcus mutans Xcを刺激物として、ヒト動脈内皮細胞におけるサイトカイン産生を検討した。 3人の臨床的に健康な口腔を有する被験者から採取した歯垢細菌あるいはS. mutans Xcとヒト動脈内皮細胞を37°C、5% CO2下でMOI=1で4時間共培養、あるいは4時間共培養後に抗生剤処理により内皮細胞表面に付着した菌を死滅させ、細胞内に侵入した菌は生存できる状態にして、さらに内皮細胞を24時間培養した後、それぞれの培地を回収し、培地中のIL-6、IL-8、MCP-1タンパク量をELISA法で定量した。結果は非刺激HAEC(対照) と比較し、統計分析(一元配置分散分析の後、Dunnett検定)を行った。 ヒト動脈内皮細胞とヒト歯垢細菌を4時間共培養、あるいは4時間共培養後に抗生剤処理して侵入した菌は生存できる状態で24時間培養した場合、内皮細胞は有意に多くのIL-6、IL-8、MCP-1を産生した (P<0.05)。一方この実験条件では、S. mutans Xcは内皮細胞からサイトカイン産生を誘導しなかった。以上の結果より、口腔バイオフィルムであるヒト歯垢は、ヒト動脈内皮細胞におけるIL-6、IL-8、MCP-1産生を誘導し、その能力は単独の口腔細菌よりも高い可能性が示唆された。
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