成人由来の骨芽細胞と破骨前駆細胞を用いて、これらの細胞に及ぼすタバコ中カドミウム(Cd)の影響を検討した。各細胞のCdに対する感受性について、細胞のDNA合成と増殖能を指標として検討した結果、いずれの細胞も10-5mM Cd濃度以上のCd曝露群で、DNA合成と増殖能がCd濃度依存的に抑制された。我々は、喫煙者の唾液中Cd濃度は非喫煙者のそれに比べて、高いことを報告している。このことから、喫煙者においては、タバコ由来のCdが骨代謝に何らかの影響を及ぼしている可能性があることが考えられた。Cd曝露された細胞について、超微形態学的な変化とCdの細胞内局在を検討する目的で、電顕的な観察を行った。その結果、両細胞共に10-5mM Cd濃度以上の実験群で、細胞質の委縮や核の逸脱などが観察された。さらにCdは細胞質内全般に確認されたが、特に粗面小胞体付近に局在している傾向にあることが観察された。Cd曝露された細胞のサイトカイン産生については、骨芽細胞、破骨前駆細胞において、IL-6とPGE2が誘導されることが示された。さらにメタロニオネイン(MT)についても、Cdにより誘導されることが確認された。これらの物質の誘導は、DNA合成や増殖能の抑制が起こらない比較低濃度Cd曝露でも生じることが分かった。最終年度は細胞の分化に及ぼすCdの影響を検討した。その指標としては、シクロオキシゲナーゼ(COX)と同酵素の挙動と関連するPGE2に着目した。さらに、破骨前駆細胞についてはTRAP染色による検討も試みた。その結果、10-6mCd濃度以上の群では、細胞の分化が抑制されることが確認された。その抑制の程度については、骨芽細胞と破骨前駆細胞とで明らかな違いを認めることが出来なかった。今後はCd感受性について、骨芽細胞と破骨前駆細胞で違いがあるのか否かについて、引き続き検討していく予定である。
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