本研究では歯学部付属病院に院内安全管理体制の整備が義務化された直後の2004年と8年後の2012年について、インシデントレポートを比較分析し、歯科医療事故の発生率や特徴がどのように変化してきたかを分析した。某歯学部付属病院のインシデントレポートについて、2004年度と2012年度のインシデントレポートを集計した結果、報告数はそれぞれ300件と277件であった。そのうち有害事象が発生した割合は2004年度が14.7%(44件)、2012年度は30.3%(84件)と増加していた。各項目について有害事象の発生の確率が高い要因を検討した結果、医療従事者の年代について2004年度は2012年度ともに50代でそれぞれ有害事象の発生率が30.0%、38.9%と高かったが、2012年度はさらに20代において41.1%と特に高くなっていた。職種については研修医・学生が2004年度は37.2%、20012年は50.0%と高かった。また卒後5年未満の歯科医の有害事象率は18.4%から50.0%に上昇していた。さらに有害事象の発生の有無を目的変数、その他の変数を説明変数として多変量ロジスティツク回帰分析を行ったところ、2004年度においては50代の医療従事者に有意に高いオッズ比が得られ、2012年度は手術室・技工室でのインシデントに有意に高いオッズ比が得られた。 これら複数の要因が重なったときの条件付き確率を求めたところ、2012年においては経験5年以上の歯科医師について12-13時及び16-17時の有害事象発生率が約75%、経験5年未満の歯科医師では男性かつ12-14時の間で100%、研修医においては月の第1週目において78%と特に高くなっていた。今後、医療事故を未然に防いでいくためには歯科医師の経験や勤務形態によって研修や対策方法を変えて講じていく必要がある。
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