パーキンソン病(PD)患者は進行とともに嚥下障害が出現し、口腔期障害は最も多くみられる所見である.口腔期障害を総合的に評価できる口腔移送時間(Oral Transit Time,以下OTT)に注目し,口腔期障害が嚥下機能や全身状態に与える影響を検討した. PD患者202例(平均年齢70.6歳,男性105例,女性97例)を対象とした.Hoehn&Yahr重症度(以下H&Y分類)は中央値3.0,平均罹病期間は8.0±4.6年であった.健常対照17例(男性13例,女性4例,平均年齢60.4歳)で同様にVFを実施し、OTTを測定した。健常者のOTT平均値からカットオフ値を決め、PD患者をNormal OTT群(N-OTT群)とDelayed-OTT群(D-OTT群)の2群にわけ、嚥下機能を比較した.カイ二乗分析では,口蓋と舌の接触の有無,舌根と咽頭後壁の接触の有無,早期咽頭流入,嚥下反射惹起部位,誤嚥で有意差を認めた.多重ロジスティック回帰分析では,口蓋と舌の接触の有無、早期咽頭流入、誤嚥で回帰式が成立した.口腔期障害のあるPD患者では,舌の寡動により誤嚥を生じる可能性が高いことが明らかになった. 次いで、PD患者とレビー小体型認知症(DLB)患者で比較した。対象はPD患者193名(男性100名、女性93名、平均年齢69.7歳)とDLB患者77名(男性45名、女性32名、平均年齢75.0歳)とした。PD患者とDLB患者の性別、年齢、H&Y分類を傾向スコアでマッチさせ臨床像が類似のペアを算出し、嚥下機能を比較した。傾向スコアでマッチしたのは66ペアであった。OTT,舌と口蓋の接触不良はDLB群で有意に悪かった.交絡を排除したDLBとPDの2群の比較で,DLBはPDよりも有意に口腔期障害が多いことを示した.より広範にレビー小体が出現するDLBでは嚥下障害が出現しやすいことが示唆された。
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