研究課題
全世代を通じて「食」は生命維持に欠かせない要素であり、QOLを高める上でも重要である。食に関する‘満足感’の源は「おいしさ」を感じることである。「おいしさ」とは風味すなわち‘味・ニオイ・舌触り’であり、とくに「味覚」と「嗅覚」が重要と考えられている。けれども、中枢神経系において味覚と嗅覚の統合機構については未だ不明な点が多い。本研究の最終目的は、味およびニオイ刺激に対する応答を指標に、味覚野であり嗅覚情報を含めた多様な情報を統合する領域の1つとして考えられている島皮質と、嗅覚野である梨状皮質を観察し味覚と嗅覚の情報統合機構を明らかにすることである。2015-2016年度は、ラット全脳動物標本を作製し、味覚神経経路および嗅覚神経経路を単独または同時に電気刺激を行った際の皮質応答について膜電位の変化を指標に記録・検討した。本年度は、前年度までに得られた知見に対し解析を進めるとともに、実際の味(甘味や苦味などの液体)およびニオイ(Amyl acetate;バナナのニオイなどを使用)を刺激として用いる実験に着手した。これまでのところ、膜電位と同様に神経活動を反映すると考えられている内因性蛍光タンパクであるフラビンの応答変化をマウス全脳動物標本で計測することによって、ニオイ刺激に対し一次嗅覚野である梨状皮質を中心とした皮質が応答を示すことが明らかになった。一般に哺乳類は味やニオイといった化学物質に対して馴化・順応しやすい。この影響を排除するために刺激間のインターバルの設定に注意する必要があるが、本手法ではニオイ刺激の際のインターバルは3-5分程度必要であることが推測された。これらの結果と他の実験条件を加味し、味刺激とニオイ刺激を同一個体に適用し化学感覚の情報統合機構を明らかにすることが今後の課題である。
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Clinical Science
巻: 130(21) ページ: 1913-1928
10.1042/CS20160277