研究課題/領域番号 |
26463193
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝訓 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (50176343)
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研究分担者 |
青木 伸一郎 日本大学, 松戸歯学部, 講師 (60312047)
大沢 聖子 日本大学, 松戸歯学部, 助手 (00152108)
多田 充裕 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (30260970)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歯学教育学 / 医療行動科学 / 行動医学 / カリキュラム / プロフェッショナリズム / 医療面接 |
研究実績の概要 |
米国ECFMGが宣言した「2023年以降、国際基準の認証を受けていない医学部の卒業生には受験を認めない」とする問題に発して、国際医学教育連盟は医学教育のグローバルスタンダードを発表した。これに準拠した「医学教育分野評価基準日本版」が医学教育学会から発表され、現在この基準に沿って各大学の医学教育を認証する体制が構築されることになった。これまでわが国の医学教育に「行動科学・行動医学」という学問体系がなく認知されていない上で、この認証基準において大きくクローズアップされた。これらを踏まえて、人間行動を科学的に理解するには、人間の思考、記憶などの知的機能の解明を目的とした認知心理学を基盤として、医療者や患者の行動を学習するためにシラバスにアウトカムやコンピテンスを具体的に記載することが求められている。 これらのことから、歯科医学においても追随し、従来の基礎医学、臨床歯科医学に加えて、「歯科医療行動科学」をもっと詳細に1年次入学から、関連科目と密接にリンクしながらラセン型に積み上げていく学問体系を開発する必要がある。本研究は、総覧的に大学ごとに科目名、時間数等の特徴について傾向をまとめているが、収集した記載内容は画一的に書かれてはないのが現状であった。従来の科目とは異なり、行動科学領域におけるシラバス記載項目にはかなりの差があることがわかった。Adobe Reader の文字検索機能を用いて、PDFファイル内の検索を行ったが、学修項目の違いや傾向を比較するには、シラバスに書かれているキーワードや情報が量質ともに不足感を認めた。そこで、今年度は学習項目の整理に加えて、行動科学のアウトカムとして、段階的に獲得した心理・コミュニケーション・社会的基礎知識を統合することで、最終的には患者と対応する際に使われる医療面接が能力発揮できるよう、より具体的な指針としての段階的な学びについて整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
29大学のシラバスをPDF化し、基礎、臨床科目を除いた社会・心理・人文系の科目に視点を広げ、抽出したキーワードによる検索を進めが、平成26年度シラバスの記載内容は、目標基盤型の記載が大半で、各回のSBOsの提示がいまだ徹底されていないことも明らかになった。特に行動科学領域ではかなりの差があることがわかった。各大学において記載内容の統一か進んでいるものと想定していたが対応の再考を認めた。 そこで、行動科学領域の研究課題を広げ解釈し補充検討した。行動科学の意義から考え、人間行動の変容について、歯科衛生学生が臨床実習を体験することで、患者とのコミュニケーションの自己効力感が、どれだけ変容するかについて検討した。学習経験、コミュニケーションスキル、一般性自己効力感と関連があることがわかった。また、3年次歯科学生に患者付添い実習を行うことで、患者の視点との違い、コミュニケーションの大切さや難しさを知ることができ、学修の促しを通して行動変容の心理的メカニズムの必要性を理解することができた。さらに、プロフェッショナリズム教育では教育者側が意図としたカリキュラムと学習者が学び取った内容の間にズレが生じることがあり、そこで感じる「違和感」について質的な分析を試みた。「歯科医師のコミュニケーション・態度」については、前提となる知識と異なると感じる学生が多く見られ、潜在的カリキュラムの存在を抱くような傾向が抽出された。 また、行動科学を医療現場の最終場面で、歯科医療面接について深く理解する必要があり、解説論文をまとめることで、多くの知識や必要な能力について整理することができた。さらに20名の専任教員が集まりワ-クショップを開催することで、登院前OSCE、臨床実習終了時、研修歯科医終了時、卒後3年程度の歯科医師が具有すべき医療面接に関するコンピテンスを段階的にアウトカムとしてまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
シラバスの記載内容の不足感もあるが、1年の延長期間が得られたのでキーワードの整理を進め、現状での傾向をまとめる。解析はこれまでに得た資料から抽出したキーワードについて、言語化コーディングを行い、テキストマイニング処理を行うことで、特徴を抽出し傾向分析を行う。これらの上位抽出用語を整理することで、各学年における段階的なコンピテンスを整理する。明らかとなったエビデンスについて、連携研究者や医学・行動科学の専門家を交えて討議する予定である。 また、新たな方策を用いて根拠の作成を違った形式で行う予定である。アンケートによる聞き取り調査を実施することで補填する予定である。第1回目のアンケートは、1)歯科医療行動科学の授業項目(科目名、GIO,SBOsなど)に関する質問、2)歯科医療行動科学の学問構築に関する意見や考えに関する質問とする。聴き取り調査は、シラバスから不確実な事象や不明瞭な事項について、mail、文書、および教育機関を訪れてフォーカスインタビュー調査を行う。連携研究者の専門性、地域性を用いた細かな調査を行う。その後、1)学士課程終了時に獲得すべきコンピテンスに関する質問、2)段階的に獲得すべきコンピテンス設定に関する質問等を続けて徴収するつもりである。 欧米諸国、特にヨーロッパ歯科医学教育学会、米国歯科医学教育学会における投稿論文が主となるが、その他教育機関における投稿論文を検索し、ガイドラインから科目名、学習目標、行動目標、その他、明らかになった教育的事項の抽出も図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度にアンケート結果を報告予定であったが、収集した平成26年度シラバスのSBOs記載が不足気味で、行動科学領域も大学間に差があったために遅れて、本来の道筋での解析がうまく進展しなかった。そのため、予定していた聴き取り調査や専門知識の提供を求めるための招聘が、うまく進まないために経費が使用できず繰り越しになってしまった。 また、研究代表者が病気、業務多忙のために時間が費やされ、さらに遅れの要因となってしまった。今後、業務委託することにより平成26年度から実施しているアンケート結果の不足をカバーし、かつ本領域の新たな志向性も調査し、より緻密な研究が実施可能と考える。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の遅れを取り戻すために、人的な援助(大学院生)を求め謝金を用いて、データの整理および解析をさらに進めるつもりである。また、シラバスの不足部分に関しては、積極的に聴き取りを行うために、研究分担者を追加したので、直接インタビューを該当者の元に派遣して実施する予定である。連携研究者の専門性、地域性を用いた細かな対応を実施するつもりである。専門知識の提供については、翻訳および実質的な専門家を招聘し、指導を仰ぐ予定である。具体的にまとまった内容については、随時、学会雑誌(日本歯科医学教育学会誌、日本総合歯科学会誌学、日本歯科医療管理学会誌等)に報告して行く予定である。
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