歯科医療面接や説明・指導に関わる医療コミュニケーションは,卒前教育においては初診時場面を中心に教育内容が体系化されている.しかしその教育は基本的な学習内容にとどまり,患者の感情面を配慮した対応についてはまだ十分ではない.そこで,歯科医療者が様々な性格や社会背景,医療に対する認識を有する患者を指導する複数の事例と各々の患者がその時の感情面についてふりかえる場面の動画を作成した.この動画教材を授業で活用し,その教育的有用性の検討を行った. 動画教材は,歯科医療者による患者へのブラッシング指導場面および抜歯の説明と,その後の患者のふりかえり場面で構成した.シナリオは歯科医療者が困惑する場面を基本とした.ふりかえり場面は患者の感情を聞くインタビュー形式で作成した.この動画は,歯学部5年生対象の「医療コミュニケーション実習」で活用し,授業終了時,説明・指導のコミュニケーションに関連した今後の臨床実習での学習や実践について質問紙調査を行った. 感情面に注目した歯科医療面接の動画教材の利用は、学生が,指導場面で“患者との会話の中で不安や疑問に気づくことができるように気を配る”ことや,“患者に悪いことばかりではなくよい点も伝えられるようにする”ことの重要性に気づき,動画教材を通して次への学びにつながる意識が芽生えた.本動画教材は,患者の感情面に注目した動画教材の活用が学生の今後の学習に対する意識の向上や患者の立場を配慮したコミュニケーションの重要性の気づきを促せる可能性を示し,歯科医療コミュニケーション教育において有効となることが示唆された.
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