研究課題/領域番号 |
26463287
|
研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
平尾 百合子 山梨県立大学, 看護学部, 教授 (50300421)
|
研究分担者 |
佐藤 淑子 大阪府立大学, 看護学部, 准教授 (40249090)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 院内感染 / 中小規模病院 / 感染管理システム / 感染防止対策加算 |
研究実績の概要 |
山梨県内での山間部僻地の中小規模病院の感染管理システム構築に焦点を当て、感染対策を担当している看護師に感染対策上の問題や不安などについて聞き取り調査を実施した。その結果、研究協力施設の4病院には感染症専門医や感染管理認定看護師が不在であり、感染対策費用や専門知識が不足している中で感染対策チーム(ICT)の医師や看護師が中心となって多職種連携で感染対策活動を実施していた。なかでも僻地医療を担っている2病院では院内感染対策教育のニーズが高く、手形培地を用いた手指衛生教育や環境整備用品等の試験に導入すると共に、全職員を対象とした院内感染対策の基本的な講義も行い、各病院のICTメンバーと協力しながら意識調査を実施し、その教育効果について検討した。 病床規模の異なる4施設で手術室看護師が使用したフェイスシールドをルミノール処理し血液曝露の実態を調査した研究では、使用者の記載内容から業務や術式・出血量と曝露状況について比較検討した。回収したフェイスシールド320枚中140枚に血液曝露が認められたが、140枚中115枚は曝露の自覚がみられなかった。業務別では器械出しが197枚中99枚、外回りが50枚中17枚、ガーゼカウントが19枚中9枚であり、術式別では外科の開腹手術47枚中21枚、産科の帝王切開術34枚中30枚に血液暴露があった。見学者やベビーキャッチにも曝露が認められたことより、眼の防護の重要性が明らかとなった。 奈良県では県立2病院と市立1病院の計3施設が僻地医療拠点病院に指定されており、僻地の診療所への代診医の派遣や無医地区等への巡回診療などを行っていた。 新聞記事の記載内容から院内感染を社会学的に分析した結果、300床未満の中小規模病院や診療所では、院内感染報道が急増した1999年以前からも問題であった結核やB型肝炎等の院内感染が依然勃発しており感染対策の遅れが疑われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
山間部僻地の中小規模病院の調査について、山梨県内の4病院では研究協力者や大学院生による活動の成果が現れており、順調にアクションリサーチが実施ができている。 手術室看護師が使用したフェイスシールドをルミノール処理し血液曝露の実態を調査した結果では、大規模病院よりも中規模病院での血液曝露数が極めて少なく病床規模の違いによる血液暴露の違いがみられた。また、業務や術式に関係なく血液暴露を受ける危険性があり眼および眼周囲への防護の重要性が明らかとなり、防護具使用における根拠の貴重な資料を得ることができた。 一方、奈良県内の調査では僻地医療拠点病院の協力を得てフィールドワークを実施する予定であったが、新聞記事からの社会学的分析に時間を要し、十分なフィールドワークを実施することができなかった。しかし、その代りに膨大な量の新聞記事を分析することによって、院内感染が社会問題化した過程が明らかとなり、その社会学的背景についても考察することができた。院内感染の社会問題化は、医療者が1980年代に学会等を通じてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に代表される耐性菌による院内感染の問題を指摘したことから始まり、1990年代には訴訟報道を含む多くの記事が新聞に掲載されるようになった。これらのクレイムに対し、厚生省が院内感染対策の通知を立て続けに出したことによって成立していった。院内感染の社会問題化の特徴は「耐性菌による院内感染」というように院内感染のサブカテゴリが社会問題とされたことと、新聞より先に医療者が社会問題であると表明したことにあり、その背景には耐性菌の問題が個々の医療機関や医療者の責任の範囲内では解決できない問題であるとの医療者側の認識があると考えられ、院内感染に関連した社会学的分析を深めることができた。 以上のような研究成果が得られたため、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
感染症専門医や感染管理認定看護師が不在の山間部僻地の中小規模病院において、効率よく院内感染対策が実施できるよう実現可能な感染管理システムの試案を作成するため、山梨県内の山間部僻地の中小規模病院の感染対策チームの協力を得ながらアクションリサーチを展開してきた。今後は山梨県立大学大学院感染看護学分野の大学院生2名(越取雄策・小林 緑)の協力も得ながら対象の中小規模病院を拡大し、より実現可能な感染管理システム構築に向けて調査を進めていく予定である。 遅れている奈良県内の山間部僻地の中小規模病院のフィールドワークについては、研究計画の見直しを共同研究者と実施すると共に研究体制を立て直し、山梨県からも支援していく予定である。 また、本研究課題は今年度で完結し誌上発表できるよう後半は執筆を中心に活動したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度には奈良県内の調査を実施する予定であったが、奈良県内の調査を主に担当している共同研究者が新聞記事からの社会学的分析も担当しており、全国紙2社に焦点化し院内感染の記事を収集したが、予定していたよりも多くの新聞記事が収集でき、その分析に時間を要したため、奈良県内のフィールドワークを十分にできなかった。このため、奈良県内でのフィールドワークに使用する消耗品や旅費等の費用が次年度に繰り越してしまった。 また、山梨県内での僻地医療を行っている中小規模病院のアクションリサーチの方は、平成27年度の学会発表の申し込みに間に合わず旅費が残ってしまったことと、現在作成中の感染対策マニュアルの印刷費等の必要経費が残っており次年度に繰り越すこととなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
奈良県内の調査では僻地医療拠点病院2施設程度の協力を得てフィールドワークを実施する予定であり、そこでの調査に必要な消耗品費や旅費として使用する予定である。 山梨県内の調査では、平成28年秋に開催される日本感染症学会東日本地方会(新潟)で発表できるよう準備しており、旅費等の費用が必要となる。また、アクションリサーチの協力病院において、試験的導入予定の感染対策マニュアルの印刷費等にも繰越金を使用する予定である。
|