本研究は、多発性硬化症((Multiple Sclerosis:MS)患者に対する非薬物介入として海外では広く実施されている認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:CBT)を導入し、前後の患者の心理的適応状態およびQOLを評価することにより、患者のQOLに対するCBTのアウトカムを評価することを目的とした。 研究の進捗状況から研究期間を1年間延長し、平成29年度から最終年度の平成30年度にかけて10名のMS患者を対象にCBTのパイロットスタディを実施した。患者の通院予定に合せて月1回のペースで計8回のCBTを実施し、導入前、中間時、終了時にMS患者のQOL評価尺度であるFAMS(Functional Assessment of Multiple Sclerosis)日本語版、および抑うつ状態評価尺度のCES-Dスケール(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を実施した。研究参加に同意した患者10名のうち、2名は導入前のCES-Dの結果で抑うつ傾向が認められず対象から除外した、残る8名のうち、1名は3回目終了時点で辞退したため、7名の結果を分析対象とした。結果、CES-Dの下位尺度項目で改善が見られ、FAMSの合計得点でQOLの改善が示された。対象者からの主観的な評価として、CBTが対象者にとって心理的に効果を実感する旨の質的データが得られた。 CBTは構造化された心理的介入として臨床看護において実施可能性が示されている。今回は統計的有意を確認するには至らなかったが、今後は事例数を蓄積してMS患者に対する心理的ケアの一環として有効性を確認する予定である。
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