研究課題/領域番号 |
26463395
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
山崎 圭子 東邦大学, 看護学部, 准教授 (50535721)
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研究分担者 |
丸井 英二 人間総合科学大学, 人間科学部, 教授 (30111545)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 疲労感 / 抑うつ / 産後 / 高年初産婦 / 睡眠 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、出産後から産後1か月までの高年初産婦の産後の疲労感とうつ状態の関連を明らかにすることである。出産後、母児同室を実施した高年初産婦に質問紙調査(「産後の疲労感」尺度、EPDS、STAI)の研究協力を依頼し、105名から研究協力が得られた。この内10名から継続調査の同意が得られ、産後1か月までの産後の疲労感、睡眠状態、育児の状況、母親の心理的変化を調査した。質問紙調査とインタビューは、退院後1週間と産後1か月で実施した。高年初産婦の退院後から産後1か月までの睡眠状態を把握するために、アクティグラフを用いて睡眠状態を連続測定した。 10名の継続事例の産後の疲労感得点とEPDS得点は、出産後の入院中が最も高く、その後、退院後1週間、産後1か月の順で減少した。産後の疲労感得点は、入院と産後1か月の間に有意差が認められ、EPDS得点は入院中と退院後1週間の間、入院中と産後1か月の間に有意差が認められた。産後の疲労感得点とEPDS得点は、すべての時期で強い相関があり、産後のうつ状態を予測する評価指標として、産後の疲労感の経過を観察することの有効性が示唆された。睡眠状態については、退院後から産後1か月までの総睡眠時間は399.0分/日であった。睡眠中の動きを測定する活動指数(Activity Index)が高値の母親は、産後の疲労感得点およびEPDS得点が高値の傾向がみられた。 継続事例の対象者は、10名中9名が自宅で産後の生活を送り、実母や義母などから日常生活の支援を受けていた。対象者は、児の夜泣きなどの育児に関連したことで、夫や実母などの支援者にストレスを感じており、対象者の産後の疲労感やうつ状態に影響していることが推察された。今後は、対象者の「行動」と「認知」の分析を新たに加え、高年初産婦の認知モデルの観点から検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から実施していた調査は、産後1か月までの継続調査への協力者を確保するのにやや時間を要し、平成26年9月まで延長したが、予定通りデータ分析まで終了した。10名の継続事例の概要は、平均年齢39.6±2.5歳、不妊治療後の妊娠6名(60.0%)、合併症妊娠4名であった。産後の疲労感得点は、入院中が101.7±17.3点と最も高く、時間の経過と共に減少し、入院と産後1か月の間には有意差が認められた。EPDS 9点以上の割合は、入院中80%、退院後1週間40%、産後1か月20%で、入院中と退院後1週間の間、入院中と産後1か月の間に有意差が認められ、母児同室開始時は、精神的ストレスが高いことが明らかになった。また、退院後から産後1か月までの一日の睡眠中の活動指数が高値の母親は、産後の疲労感得点およびEPDS得点が高値の傾向がみられた。産後の疲労感得点とEPDS得点と間には、3時点(入院時、退院後1週間、産後1か月)で強い相関が認められ(r=0.79-0.86)、産後のうつ状態の予測する指標として、「産後の疲労感」尺度の活用の有用性が示唆された。 継続事例の対象者は、10名中9名が自宅で産後の生活を送り、実母や義母を自宅に呼んで日常生活の支援を受けていた。対象者は、児の夜泣きが働いている夫に迷惑をかけてしまうと<夫への気兼ね>を感じており、実母や両親らの支援に対して「うるさい」と否定的な感情を抱いていた。この様な育児を介した実母や義母などの支援者とのかかわりが、対象者の産後の疲労感やうつ状態と関連していることが推察された。 当初予定していた「高年初産婦の産後ケアガイドライン」の作成に当たっては、高年初産婦の産後の生活とソーシャルサポートの実態を把握する必要があるため、「行動」と「認知」の視点から分析を行い、高年初産婦の認知モデルの観点から検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、対象者と児とのかかわりから生じる「産後の疲労感」と「うつ状態」の関連に焦点を当て、うつ状態に移行しやすい時期、症状、観察ポイント等を分析し、高年初産婦の産後ケアガイドラインを作成する予定であった。しかし、平成26~27年で実施した調査結果からは、児に対する心理的問題だけでなく、育児を介した周囲の人との関わりが「産後の疲労感」と「うつ状態」に影響を及ぼしていることが推察された。特に、高年初産婦の場合、パートナーや両親が健康面で問題を有していることや、育児に対する実母らとの対立がより強く生じている事例がみられた。 当初予定していた「高年初産婦の産後ケアガイドライン」および「高年初産婦のための産後ケアプログラム」の作成に当たっては、高年初産婦の産後の生活とソーシャルサポートの実態を把握する必要があるため、今年は、対象者の「行動」と「認知」の視点から分析を加え、臨床心理士のスーパーバイズを受けて高年初産婦の認知モデルの観点からも検討する予定である。その結果を踏まえ、妊娠期から育児までの母親役割獲得過程における高年初産婦の認知モデルの調査の必要性について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アクティグラフの解析ソフトを購入予定であったが、業者に委託して解析を行った方が安価だったため、当初の予定より使用額が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
実施した調査結果より「産後の疲労感」尺度による評価指標の有効性が明らかになった。今後、「高年初産婦のための産後ケアプログラム」で母親自身が「産後の疲労感」尺度を使用することを予定しており、誰もが簡単に活用できるようにデザイン業者に委託する予定である。
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