高齢者の入浴事故の多くは、環境の整っていない在宅に多く、事故の発生は外気温の低下する冬季に多いことが報告されている。なぜ冬季に多いのかその推察はできるが実態は明らかにされておらず、いまだ事故予防につながっていない。そこで、夏季と冬季に高齢者の実態を測定用具を用いて客観的に評価し、入浴事故予防システムの開発に着手した。昨年夏季と冬季に高齢者ボランティアの入浴の実態を調査・測定したデータをもとに、入浴事故の要因分析を行った。室温は冬季で有意に低下し、入浴時の温熱刺激の大きさが明らかである。また、浴槽の湯温にも季節間で有意差があり、冬季の平均湯温は41.5±1.2℃と循環への影響を受ける可能性が高い温度となっていた。好みの湯温にも季節間での差があり、冬季には40℃以上を好む者が多くなっていたが、入浴時間の長さには季節間での有意差はみられなかった。循環への影響については、血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)には季節間で変動に違いがあり、冬季には脱衣室で有意な上昇がみられたが、脈拍には季節間の違いはなかった。心筋への負荷を代用する心筋酸素消費量(RPP)では季節間での変動に有意差があり、血圧と同様に脱衣室において冬季に有意な上昇を認めた。これらのことから、入浴前の脱衣室における寒冷刺激が循環機能に影響し、自律神経機能の退行性変化がある高齢者において、その変化への応答は不十分になり入浴事故が起こる可能性が示唆された。しかし、RPPの変動程度には個人差があり、その要因を分析する必要があり、現在も分析を継続している。これらの結果は、研究に協力いただいた高齢ボランティアの皆様に個別に結果報告をし、入浴事故予防への啓発を行った。
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