研究課題/領域番号 |
26463482
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
橋爪 祐美 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (40303284)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 老親介護 / 熟年女性 / ケア従事者 / 介護うつ / 夫婦関係 / interpersonal support / ジェンダー / 規範意識 |
研究実績の概要 |
【調査1】老親介護しながら就労するケア提供者(妻)8人と4人の配偶者(夫)に行った質問紙と面接調査のデータを、夫婦面接を施した4組(以下、面接群)と、実施しなかった4人の妻(非面接群)に分け、夫から受ける精神的ケアに対する妻の受け止め方(夫にありのままを受け入れられている感覚)、感情開示、余暇確保度、余暇時間、介護負担感、性役割規範のプレッシャー、抑うつ感、役割受容意識を比較検討し、研究協力者の助言を受けた。 面接群の妻は非面接群と比べ感情開示の程度は高く、余暇時間の確保度や時間が長く、介護負担感・性役割規範のプレッシャー・抑うつ感が低く、役割受容意識が高く、夫にありのままを受け入れられている感覚は肯定的であった。非面接群の妻では、面接群に比べて性役割規範のプレッシャー・抑うつ感が高い傾向があったが、夫にありのままを受け入れられている感覚をもつ者もいた。夫側が介護を分担し妻へ精神的ケアを行っている意識をもっていても、妻の受け止め方が夫と一致しないケースもあった。夫の妻への対応において、夫の性役割意識が影響していた。老親介護の協力体制のある夫婦では、妻の介護負担感が軽減する傾向があるものの性役割規範や抑うつ感軽減には課題が残ると考えられた。 【調査2】米国西海岸の日系ナーシングホームで働く中高年女性ケア提供者に、老親介護と職業生活両立の上で期待する配偶者の精神的ケアについて聞き取り調査を実施した。老親介護責務の認識に『女性であること』『専門職であること』が関連し、夫から受ける精神的ケアに言語的(傾聴や励まし)非言語的コミュニケーション(hugging)があり、内容に日本在住夫婦との差異があると考えられた。 【調査3】“介護うつ”の定義について昨年度見出された、感情労働とバーンアウトとの関連に加えて、新たに共感疲労の概念との差異を検討する必要性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
老親介護する中高年女性ケア従事者の“介護うつ”予防を最終目的として、夫婦間のinterpersonal support機能としての心のケアに必要な要素を検討することと、それにあたり、新たな概念(共感疲労)を含めて再度検討し、当該対象の“介護うつ”の概念を定義づける必要性が明らかとなった。 比較対象として、ジェンダー・ギャップ指数(GGI。日本は2015年101位/145か国)の上位国である米国(20位)に在住する、日本人の老親をもつ中年世代の子ども対象に、引き続き調査を継続する必要性が見出された。調査対象者のリクルートに課題があるため、過去の研究データの2次分析や、信頼のおける定期刊行物等の活用可能性の検討と、ケア提供者以外の職種や、無職の人も被調査者に含める方針が定まった。またアジア諸国でGGIが50位内にある2か国(フィリピン、モンゴル)において、将来的に本研究を行う必要性が見出された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の分析結果から、老親介護に関わる夫婦間のinterpersonal support機能の検討において、夫婦同時に面接調査を施したデータについて、質的帰納的分析手法による詳細な分析(Thick description)を行う。また、比較対象として、ジェンダー・ギャップ指数上位国である米国在住の、日本人の老親をもつ中年世代の子どもも、被調査者に含める。アジア諸国でGGIが50位内にある2か国(フィリピン、モンゴル)において、同様の調査の実施について計画する。 本研究課題は夫婦間コミュニケーション手段という、被調査者の語りや言語・文字で提供されるデータに価値を置く。一方でプライバシーに関わる繊細なテーマのため被調査者のリクルートに課題がある。従って、過去の調査のインタビューデータも活用する。 学術論文に限らず、信頼のおける定期刊行物やモノグラフ、さらに視聴覚資料について活用可能性を検討し、夫婦間のinterpersonal support機能としての心のケアに必要な要素、これを阻む要素の抽出や同定について引き続き検討を進める。 老親介護する中高年女性ケア従事者の“介護うつ” の概念定義のために、共感疲労を含めて再度検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国での協力者に支払った謝金の為替差額のため。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品に充当予定である。
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