背景:人口減少及び超高齢社会への移行は本邦の医療制度やケア文化の根幹に影響し、家族介護者の介護負担の増加や介護者の健康・経済的問題が深刻化している。高齢・慢性状況及び終末期ケアの担い手である家族介護者は、病を抱えながら生活する人々にとって掛け替えの無い大切な家族であるだけでなく、重要なヘルスケア人的資源とも捉えられる。他方、日本特有の生活文化や社会的価値観が介護ケアや看護現象に与える影響も軽視できない。家族介護者の健康やQOL(生活の質)を支える家族介護者研究分野、特に介護者QOLの定量化への取り組みは海外に遅れており、本分野の発展は国が模索する地域包括ケアシステム構築の一助と成り得ると考えた。 目的:介護者の日常ケア経験に対する見解とその特徴及びQOLに関連する文化的要素の可視化のために質的探求を試みること。また、既存の家族介護者QOL尺度の日本語訳版を試用し、比較分析・精査から日本人の特徴を見出すこと。これらを統合させ、最終的には日本の介護・看護ケア文化に適した尺度を開発し、家族介護者QOLの定量化を試みること。 成果:ケアを取り巻く日本文化の特異性(例;恩、社会的に担わされた介護役割、遠慮・迷惑、絆としての家族意思決定、思いやり、祈り)が明らかとなった。McGill大学QOLLTI-F日本語訳版試用結果の精査から、日本人対象者の特徴(例;カナダ対象者の第1因子は「自分の状態」であり、「経済的状況」は下位の単独因子だったが、日本人の第1因子は人間関係と経済的状況を切り離さない因子を形成したことから「資源」とラベリングしたなど)があった。また、日本人介護者は患者の状態に自分自身を埋没させ、生活コントロール感や意思決定参加などの個としての反応が隠れてしまうことがわかった。これらの結果を統合させ、暫定版高齢者及び慢性・終末期状況にある患者をケアする家族介護者のクオリティオブライフ尺度を作成した。
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