研究課題/領域番号 |
26463560
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
清水 宣明 愛知県立大学, 看護学部, 教授 (70261831)
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研究分担者 |
西村 秀一 独立行政法人国立病院機構(仙台医療センター臨床研究部), その他部局等, ウイルス疾患研究室長 (50172698)
脇坂 浩 三重県立看護大学, 看護学部, 准教授 (80365189)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インフルエンザ流行 / 感染制御 / 小学校 / 津波災害 / 地域対策 / 災害弱者 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、前回の研究課題における昨年度の体制を引き継いで、三重県A小学校(児童数120名程度)とB小学校(児童数250名程度)において、学校長を実施者とした全校児童対象のインフルエンザ発症実態調査を実施した。実施期間は、平成26年12月から翌27年3月末日までとした。形式は任意解答のアンケート形式とし、症状発現の日時、症状の内容、受診日時と診断、発熱の有無と体温、症状の経過、授業欠席期間、家族の発症の有無と日時、インフルエンザワクチンの接種の有無と接種日時などについて家庭で記載してもらい、記名回収した。 両校ともに、発症児童数は比較的少なく、30~40人程度であった。欠席日数は学校によって違いがみられたが、概ね3~5日間が多かった。昨年度までの研究で注目している発症認識時の咳の有無については、やはり半数以上の児童で軽度あるいは中程度の咳が認められ、学校内感染や家庭内感染の主な原因である可能性が強まり、更なる解析を行っている。 B小学校では平成26年12月初頭に、突然、複数児童の発症欠席で流行が始まった。折あしく、全校の学習発表会と次週の6年生の修学旅行が重なり、感染の拡大と旅行延期が懸念されたが、学校長と養護教諭のすばやい判断と指示で、全校児童と保護者の即座のマスク着用、集合会話や行動の自粛、インフルエンザ教育内容の復習、体調変化への注意喚起と通報の徹底を実施し、それ以降の新規感染をほぼ完全に制御することができた。修学旅行も予定通り全員が参加できた。 インフルエンザ対策を手掛かりとして、三重県C小学校とその学区地域、および同D地区で、小学校、自治会、町づくり協議会、社会福祉協議会を主体とした災害弱者の津波災害対策の研究、教育、実践の取り組みを開始した。両地区の物理的条件や児童の登下校の時間的、空間的データを得ることができ、本研究の基盤が固まりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、地域の小学校を拠点として、インフルエンザ流行制御研究を地域の地震津波対策に応用展開を図り、相互育成方法の樹立を目指すものである。 インフルエンザ流行研究においては、前年度まで研究を実施してきたふたつの小学校で、さらに研究内容を量、質ともに深めることができている。平成26年度までの結果によって、かなりの程度、小学校におけるインフルエンザ流行の仕組みを解明することができ、その知見を使って、実際の児童やその家庭の感染制御が可能になってきつつある。 小学校におけるインフルエンザ流行制御研究の成果は、他の地域の小学校や集落の関心も引きつけ、対策研究への参加校が増えつつある。それは同時に、小学校だけでなく、小学校が立地する地域全体の流行拡大や継続のメカニズムの解明のための研究を可能にする手掛かりとなる。 インフルエンザ流行制御研究の成果は、小学校やその地域の「自分の身は自分で守る」意識を育成し、それが他の地域へも飛び火した。そして、インフルエンザに限らず、地域の重大な問題である地震津波対策に地域自身が取り組む方法論も提供することになった。その方法論とは、インフルエンザや地震津波ばかりに関心を向けるのではなく、自分自身の状態や資質について詳しく調査分析して、それを十分に知ることにより、できることをできるようにしていくものである。自分たちの力を発揮するための最適解を知ることを目的とする。この考え方が地域に理解されるに従い、研究、教育、実践のサイクルが地域主体で回り始めた。 以上のように、平成26年度において、本研究の目的達成のためのプロセスは順調に進展していると評価できる。マイナス評価の部分としては、地域での研究基盤固めを優先しているために、学会や論文発表の機会が減っていることで、今後改善していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
インフルエンザ流行制御研究については、研究実施小学校を現在の2校から4~5校に増やす予定である。同時に、児童とその家族だけではなく、その地域の協力を得て、地域全体での流行推移の姿を明らかにするとともに、その制御方法の開発に着手したい。そこでは、得られる研究結果をただちに地域に還元し、制御のための有効と思われる様々な方策を試行したい。 インフルエンザ流行制御研究を手掛かりとした地域の災害弱者対策については、三重県伊勢市の東大淀町と同志摩市志摩町で本格的に開始した。現在、両地区で、小学校、自治会、町づくり協議会、社会福祉協議会などと共同して、生活環境の物理的なデータ収集とその分析に当たっているが、本年度の前半でそれをほぼ完成させる。その後、小学校と自治会を実施主体として、地域住民に対する基礎的な教育を行い、住民の意思、すなわち、災害に対する地域や不安、予定の避難経路や避難場所、健康面の問題などを明らかにしていく。本年度は、このように対象地域のハード面、ソフト面の実態調査研究とその結果の周知教育に力を入れることで、対策研究、教育、実践の基盤を固めたい。 地震津波対策が先行した地域では、逆にそこからインフルエンザ流行制御研究を萌芽させ、両方を同時進行させる。また、これらの地域の成果を積極的に他の地域にも発信して、参加地域を増加させる。 特に地域の地震津波対策については、今までの研究成果からその理論的背景が整理されつつあるので、本としてまとめて出版することで、より広域の活動を可能にする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は本研究初年度のため、研究基盤の基礎的な構築に力を入れたために、必要物品が比較的少なくて済んだことで、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、昨年度に構築した研究基盤を使って、実際の研究活動を展開できるようになり、必要物品も増えてくることが予想されるため、次年度使用額と平成27年度助成金を合わせて、実践に必要となる文具等の消耗品費、調査旅費、成果発表のための学会参加費・旅費等に充てることとしたい。
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