研究課題/領域番号 |
26463560
|
研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
清水 宣明 愛知県立大学, 看護学部, 教授 (70261831)
|
研究分担者 |
西村 秀一 独立行政法人国立病院機構(仙台医療センター), その他部局等, ウイルス疾患研究室長 (50172698)
脇坂 浩 三重県立看護大学, 看護学部, 准教授 (80365189)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 地震津波対策 / 地域支援 / 防災教育 / コミュニティケア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、三重県伊勢志摩地域で平成21~25年度に行ってきた小学校を基点としたインフルエンザ流行制御研究の成果と対策システム構築のノウハウ(主に人間関係や調査分析手法)を活用して、地震津波地域対策育成のモデルを構築することである。インフルエンザ対策研究は、主に三重県多気郡明和町の複数の小学校とその学区地域で実施してきたが、地震津波の地域対策ではその基盤を拡大する方向で進めている。平成27年度は、伊勢市東大淀集落と志摩市志摩町和具集落で具体的な研究を開始することができた。まず、各自治会や地域住民、学校関係者や児童生徒を対象とした防災講演会や研修会を複数回開催して、地震や津波の仕組みやそれらの防災についての基礎的な知識を獲得するための教育に力を入れた。それと同時に、防災教育に有効な資料の作成法や教授法などについての多数の知見を得て記録することができた。また、自治会や学校教員、防災関係者とともに対象集落全域にわたって現地調査を繰り返すことで、今まで漠然としかとらえられていなかった集落の地理的・物理的な環境について住民に目に見える形で明確に示せる資料を作成することができた。これらの資料について、調査に携わった住民とともに評価検討を行うことで、地域として可能で優先性の高い取り組みを知ることができた。二つの集落は地理的な条件が全く異なるために、それぞれに適合した対策が必須であるが、地域住民自身がそれぞれの生活環境について詳しく調査して分析する手法を身に着けたことで、研究の視点からと住民の視点からの両面からの調査結果を得ることが可能となり、それが住民自身による主体的で具体的な対策策定の進展につながり始めたことが平成27年度の大きな成果と言える。住民自らが地震・津波対策の研究と実践方法を身に着けたことにより、研究者との共同で対策の育成モデルを確立できるめどが立ったと考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小学校を基点とした地域の感染制御研究を6年間実施して、対象地域との人的なつながりができており、また地域の調査方法も開発できているため、本研究において研究テーマを地域の地震津波対策モデルの確立へと発展的に変更して実施するに際しては、それらを活用できることが期待された。しかし、近隣とはいえ新たな地域での実施となるために、現実にそれらのノウハウが有効に働いて研究を遂行できるのか大きな不安があった。しかし実際には、今までのインフルエンザ流行制御研究の実績が地域で評価されており、また、住民もインフルエンザ流行を地域の災害の一種としても認識しているため、スムーズに新たな研究対象地域の理解と協力を得ることができた。ふたつの対象地域からの自発的な要請により、平成27年度内で50回程度の地震津波災害のメカニズムとその防災についての講演会や研修会を実施することができ、住民に基礎的な知識を獲得させることができたことは、住民を主体とする現地調査などの研究活動の推進に大きな力となった。これらの研修会や調査活動は毎日新聞、伊勢新聞、中日新聞、岩手日報やNHKテレビにも記事として多数回取り上げられ、主に三重県内で広く知られるとともに、それが住民を刺激して更なる対策研究の進展につながるという好循環をもたらした。また、地域の教育活動内容と住民との調査研究の成果を「津波避難学(命が助かる行動の原則と地域で進める防災対策)」(すぴか書房刊、平成28年3月)と題する単行本として出版することができた。この本は地域の地震津波対策の教科書や参考書としても活用が始まっているため、更なる研究の推進に有効と考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究活動で、三重県伊勢市東大淀集落と志摩市志摩町和具集落で、住民主体による地震津波地域対策のモデル構築のための基礎が固まった。本年度は、集落内で特に発災時に不利な立場に立たされる可能性が高い弱者(高齢者、乳幼児、妊産婦、障害者、基礎疾患者、独居者、外国人など)の生命を守り維持するための仕組みの構築を目指して、それらの環境や意志などの詳しい調査を実施してその実態とニーズを明らかにしたい。地域には、災害弱者を支援できる施設(学校、事業所、福祉施設など)や人的資源(看護師、介護士、介護経験者、ボランティア経験者、危機管理関係者など)が多数存在するので、それらの実態を調査して明らかにし、活用に道を開く方策を策定したい。一方、地震津波避難では個人の行動が重要であるため、すべての住民を対象にして、個人の避難環境を自己調査する「避難カルテ」と、具体的な避難方法を明記する「避難プラン」を作成したい。それらを分析することにより、個人の避難をより安全かつ効率的に遂行することに寄与する地域の対策が明確になることが期待され、それらについては自治会などとともに実現方法を研究して発表していきたい。また、萌芽的な取り組みとして、他機関との共同で、地域の被災時のドローン(無人航空機)の空撮運用についての本格的な検討作業にも入る予定である。被災時に地域に必要とされるのは、被災状況の迅速な把握とそれに基づく救助救援対応である。大規模広域災害においては、他機関による即座の支援を得ることが不可能であるために、地域住民自身による情報収集と活用の仕組みは、住民の生命を守るために極めて重要であるため、その新しいツールとして地域運用防災ドローンを検討したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度までは、地域の地震津波対策のモデルの構築のための準備段階として、地域住民の教育や自治会などとの関係構築などソフト面に注力したために、必要とされる物品が少なくて済んだ。それが一応の完了をみたので、本年度からは本格的なモデル構築のための調査研究とその対外的な発表、および研究範囲の拡大が必要となってくることが十分に予想されるため。
|
次年度使用額の使用計画 |
地域の情報の収集、蓄積、および分析、成果発表や広域の教育のために必要な資機材の購入に使用したい。研究で得られた成果を国内での学会等で積極的に発表するために使用したい。研究基盤が整ったので、分担研究者との共同研究を進めるために使用したい。
|