慢性腎臓病患者には栄養障害が高頻度にみられ、その原因として全身の微小な炎症反応がある。その炎症反応が、腸管の透過性亢進や腸内細菌叢の変化に由来しているかはこれまで検討されていなかった。 そこで、まず、透析患者を対象として、腸内細菌叢を構成するグラム陰性菌の血中ゲノムを測定し、血中に腸内細菌が侵入しているか検討した。血中からはBacteroides fragilisのDNAが検出されたが、血中エンドトキシン濃度や炎症反応との関連は認められず、その臨床的意義は不明であった。 次に、慢性腎臓病(CKD)のモデルである5/6腎摘ラットを用いて、体内の炎症が腸管透過性の上昇に伴うendotoxinの体内流入や、インドキシル硫酸(IS)やp-クレシル硫酸(PCS)などの尿毒素の蓄積によって生ずる可能性を考えて実験を行った。しかし、4kD のFITC-デキストランで評価した腸管透過性の亢進は、腎機能がかなり悪化するまで認められず、腸管透過性の亢進が炎症を惹起しているとは言えなかった。また、CKDラットに対するsynbioticsの効果を検討した実験では、synbioticsの投与により、体内の炎症は低下し腎機能も保持されたが、腸管透過性に変化はなく、また過去の報告とは異なって、ISやPCSの血中濃度は上昇した。これらの結果から、最初に立てた仮説は証明されなかった。 しかし、腸管透過性の測定に問題がある可能性も考え、さらに検討を進めた。消化管のバリア機能を評価するために、腸管のタイトジャンクション蛋白の定量をするとともに、消化管炎症の指標として、小腸と大腸の Myeloperoxidase(MPO)活性を解析し、小腸組織の サイトカインの mRNA 発現量を測定することとした(解析中)。これらの実験により、腸管透過性の亢進と炎症や栄養障害の関係がより明確になるものと思われた。
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