最終年度として、DHA結合リン脂質のラットにおけるリンパへの輸送に関する実験を総括するにあたり、用いた試料におけるDHAの結合位置とその分布に関する分析を行い、リン脂質の消化管における消化動態の実験結果と合わせた位置特異性の解析を行った。その結果DHA含有リン脂質は、膵臓由来ホスホリパーゼA2(PLA2)標品によって消化された場合は酵素の基質特異性に従ってsn-2位に主に結合するDHAが遊離したが、膵液抽出物であるパンクレアチンによる消化では、sn-1位に結合する脂肪酸の方が優先的に消化されることが示された。sn-2位に結合した脂肪酸の消化度が低下するという現象は、卵黄由来PCに対しては起こらなかった。このことから、DHA結合リン脂質は膵酵素消化の段階ではsn-2位のDHAを遊離しにくく、消化産物として生じるリゾリン脂質はDHAをsn-2位に結合した状態で吸収される割合が高いことが強く示唆された。このことが、DHA結合型リン脂質が吸収されると、リンパ液中にDHA結合リン脂質が増加する原因の1つだと考えられた(現在論文投稿審査中)。 また、食品成分に対する共存脂質の影響を調べるため、最終年度はカロテノイドを用いた実験を行った。カロテノイドの吸収に関するCaco-2を用いた先行論文において、PCよりもリゾPC共存下の方が細胞へのβカロテン取り込みが増加するとの報告がある(Sugawara et al. 2001 J. Nutr.)。そこで、同様の条件で調製したβカロテン溶液をTranswell上に培養したCaco-2細胞に添加し、共存リン脂質の影響を調べた。その結果、共存させたリゾPCはCaco-2細胞の経上皮電気抵抗を低下させ得る濃度であることが示され、リゾPCが示したカロテノイドの細胞取り込み促進作用の少なくとも一部には、小腸粘膜細胞への直接的作用が関与するものと考えられた。
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