研究課題/領域番号 |
26501003
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
白吉 安昭 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90249946)
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研究分担者 |
李 佩俐 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40464292)
森川 久未 鳥取大学, 医学部附属病院, 助教 (90707217)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒトES細胞 / ペースメーカ細胞 / HCN4イオンチャネル / 蛍光タンパク質 / 可視化 / 心筋分化 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
ヒト多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導した場合には、ペースメーカ細胞や刺激伝導系細胞などの特殊心筋と、実際に収縮する心房筋、心室筋の作業心筋とが、混合した状態で得られる。しかし、特殊心筋の異常は、不整脈、作業心筋の障害は、心不全と異なった病態を示す。このように、それぞれの病気の再生医療には、それぞれの障害に対応した心筋細胞を用いることが望ましいであろう。本研究では、特殊心筋マーカーであるHCN4イオンチャネルの発現を指標とすることによって、混在した心筋分化誘導系から、特殊心筋と固有心筋とを選別採取することを試みる。 本年度は、ヒトES 細胞の改変を行い、2つの細胞株を樹立した。ひとつは、ペースメーカ細胞を含む特殊心筋の可視化を可能とするHCN4遺伝子座への青色蛍光タンパク質(CFP)のノックイン株、もうひとつは、心室筋細胞の可視化を目的としたMlc2v遺伝子座への赤色蛍光タンパク質(mcherry)ノックイン株である。HCN4遺伝子を発現する細胞の可視化のためには、HCN4遺伝子を含んだBACベクターを用いて、ヒトES 細胞の改変を行った。また、Mlc2v発現細胞の可視化のためには、ゲノム編集技術を用いCrisper/CAS9法で、mCherryのノックイン株を作製した。現在、このES細胞株から心筋を分化誘導し、CFPおよびmCherry陽性細胞を選別採取し、その特性を解析中である。予備的な結果ではあるが、HCN4陽性細胞が、生体の洞結節ペースメーカ細胞と同等の特性を持っていることを明らかにすることができている(ISSCR発表予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、まずHCN4遺伝子座に単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)を導入したヒトES細胞株を樹立する。続いて、心筋へ分化誘導後、HCN4発現細胞で、HSV-TKによる選択的な細胞死を引き起こすことによって、ペースメーカ細胞などの特殊心筋を除き、心室筋などの固有心筋を分取する計画であった。平成26年度は、このためのベクターを作製し、細胞株を樹立することを目指した。しかし、HCN4が、特殊心筋のみならず、初期の心筋前駆細胞でも発現していることが、いくつかの報告によって明らかとなり、単純にはHSV-TKによって、固有心筋を選択的に分取することは難しいことが判明した。 そこで、方針を変更して、心室筋マーカーであるMlc2vを指標とすることによって、可視化し、選択的に分取することとした。HCN4を青色タンパク質CFPによって可視化できる細胞株の樹立に成功していたので、この細胞株を用いて、Mlc2v遺伝座に赤色蛍光タンパク質mCherryを導入し、CFPでHCN4陽性細胞を、mCherryによって心室筋細胞を分取できるヒトES細胞株の樹立を試みた。その結果、細胞株の樹立に成功し、また、心筋へ分化誘導後、HCN4陽性細胞を分取すると、ペースメーカ様細胞の特性を示すことを明らかにすることができた。このように、予備的な結果ではあるが、樹立したヒトES細胞株から、特殊心筋のペースメーカ細胞と心室筋細胞を選択的に分取することに成功していることから、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
HCN4-BACを導入することによって、HCN4を指標として特殊心筋を選別採取可能なヒトES細胞株「HCN4-BAC KhES3 #21、HCN4-BAC KhES1 #1」、およびそのES細胞株を用いて、Mlc2v遺伝子座にmCherryをノックインした細胞株「#2-6、#3-8」の作製に成功している。#2-6あるいは#3-8株を用いることによって、CFPによってHCN4陽性の特殊心筋を、mCherryによって、Mlc2v陽性の心室筋細胞を選別採取することができる。 今後は、実際にHCN4陽性細胞、Mlc2v陽性細胞を分取し、(1)まず基本的な遺伝子発現プロファイルをRT-PCRによって、電気生理学的特性をパッチクランプ法によって明らかにし、計画通り、特殊心筋としてペースメーカ細胞が、固有(作業)心筋として心室筋細胞が分取できていることを確認する。(2)分化誘導後、経時的に陽性細胞を分取し、各種心筋の成熟の度合い、安定的に培養できる条件などを開発する。(3)自律神経作動薬、各種チャネルブロッカーなどの各種薬剤に対する応答性を明らかにすることによっても、分取した細胞の特性を解明する。続いて、(4)徐脈性不整脈のモデル動物である房室ブロックラット、心筋梗塞モデル動物の作製試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒトES細胞株の樹立が計画通り順調に進行したため、ヒトES細胞の培養維持費および分化誘導費に、余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、モデル動物の作製などを計画しており、また、大量にヒトES細胞から心筋を分化誘導するため、動物の購入費、分化誘導のためのサイトカインの購入費などに充当する予定である。
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