研究課題
心臓病は、洞結節ペースメーカ細胞・刺激伝導系細胞(特殊心筋)あるいは心房・心室筋細胞(作業心筋)といった障害部位の解剖学的差異により、不整脈や心不全といった異なった臨床症状を呈する。また、心筋細胞は、ほとんど再生しないため、治療にはヒト多能性幹細胞から作製した心筋細胞を用いる再生医療が有望である。しかし、ヒト多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導した場合には、特殊心筋と作業心筋とが、混合した状態で得られる。本研究では、ヒト多能性幹細胞からペースメーカ細胞と心室筋細胞とを選別分取できる実験系の構築と、各種心筋細胞特性解析およびその臨床応用の可能性を探ることが目標である。昨年度作製に成功した二重改変ヒトES 細胞株(#2-6、#3-8)を用いて、①HCN4イオンチャネルを指標にペースメーカ細胞を、②MLC2vミオシン軽鎖を指標に心室筋細胞を、同時に選別分取することに成功した(ISSCR2015、第80回日本循環器学会)。具体的には、HCN4発現ペースメーカ細胞をCFP(青色蛍光タンパク質)、MLC2v発現心室筋細胞をmCherry(赤色蛍光タンパク質)によって、同時に可視化し、それぞれをセルソーターによって選別分取した。これら二重改変細胞株から選別分取したGFP(HCN4)陽性細胞とmCherry(MLC2v)陽性細胞は、それぞれ、ペースメーカ様細胞と心室筋様細胞の電気生理学的特性を示した。さらに、分化誘導後、2ヶ月のGFP陽性細胞を選別採取し、各種薬剤に対する応答性を検討したところ、など各種イオンチャネルブロッカーに対する生理的濃度での反応性を確認することができた。これらの結果は、ペースメーカ細胞と心室筋細胞を選別採取できる実験系の確立に成功し、選別採取したペースメーカ細胞を用いて、薬剤に対する安全性試験あるいは薬剤スクリーニングが可能であることを示している。
2: おおむね順調に進展している
本年度の計画は、(1)HCN4陽性細胞とMLC2v陽性細胞の選別分取による純化、(2)基本的な特性解析、(3)各種チャネルブロッカーに対する薬剤応答性の解明、(4)疾患モデル動物への移植実験であった。我々は、まず、作製した二重改変ヒトES細胞株(#2-6、#3-8)から、純化したHCN4陽性細胞とMLC2v陽性細胞の大量調整に成功した。続いて、純化した細胞を用いて、ホールセルパッチクランプ法によって電気生理学的解析を行い、HCN4陽性細胞がペースメーカ細胞、MLC2v陽性細胞が心室筋細胞としての特性を示すことを明らかにした。さらに、選別分取したHCN4陽性細胞について、各種チャネルブロッカーに対する薬剤応答性が生理的濃度で認められた。このように、ヒトES細胞に由来するペースメーカ細胞と心室筋細胞を選別分取することに成功し、薬剤の安全性薬理試験、スクリーニングなど将来の医学応用の可能性を示すことができた。しかし、当初予定していた遺伝子発現プロファイル、再生医療のためのモデル動物への移植実験は行えなかった。一方、当初予測していなかったに二重陽性細胞が存在することが判明した。さらに、将来の医療応用を鑑みた場合、ヒトiPS細胞に由来する細胞の方が、応用可能性が広がると考えられる。そこで、ヒトiPS細胞を用いた可視化‐選別採取法を新たに開発することとし、HCN4-GFP(緑色蛍光タンパク質)-BACベクターの遺伝子導入による新規ヒトiPS細胞株の樹立に成功した。このように、本年度、ペースメーカ細胞の選別分取に成功したこと、一部ではあるが、それらの特性解析、薬剤応答性を明らかにすることができ、また新たな細胞株の樹立にも成功していることなど、研究は、おおむね順調に進行したと考えている。
純化されたHCN4陽性細胞、MLC2v陽性細胞を大量に調整することが可能となったので、(1)遺伝子発現プロファイルの解析と電気生理学的解析を進め、HCN4陽性細胞がペースメーカ細胞であること、MLc2v陽性細胞が心室筋細胞であることの確認および特性解析、(2)MLC2v(mCherry)陽性細胞の解析は、予備的段階にあるので、MLC2v陽性細胞の詳細な電気生理学的解析と各種イオンチャネルブロッカーに対する薬理実験、(3)徐脈性不整脈のモデル動物、心筋梗塞モデル動物への移植実験、(4)当初予測していなかったCFPとmCherryの二重陽性細胞が存在することが分かったので、この細胞の特性解析による同定、を進める。また、ヒトiPS細胞を用いた実験系の開発のため、(4)HCN4-GFPヒトiPS細胞株へのMLC2v-mCherryのノックインを進め、ヒトiPS細胞を用いたペースメーカ細胞および心室筋細胞の可視化-選別分取系の確立を目指す。計画最終年度に当たるので、研究成果のとりまとめを図り、学会、論文として発表する
動物実験を行わなかったので、購入費等に差額が生じた。
動物実験は、次年度に行う予定であり、計画通り使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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