研究課題
細胞ソーティング法により、Geminin-EYFPノックインマウスの骨髄細胞から造血幹細胞を分画し、Gemininの発現レベルによりさらに亜分画に分けた。このマウスにBrdUを投与し細胞周期解析を行いCD34-KSL Geminin-high細胞がS/G2/M期の細胞であることを確認した。次に単離したCD34-KSL Geminin-high細胞を致死的放射線照射したマウスに移植し、移植細胞から細胞周期の各期にある造血幹細胞が出現すること、そしてさらに各細胞系譜の前駆細胞や成熟血球細胞が長期にわたって生み出されることを確認し、CD34-KSL Geminin-high細胞が機能的にも自己複製中の造血幹細胞であることを確認した。そして、それらの分画における造血幹細胞や前駆細胞のマーカー遺伝子群や自己複製と分化の制御に重要とされる遺伝子群の発現をFludigm社のシングルセルRT-PCRシステムを用いて解析を行った。現在、幹細胞マーカーのみならず、アポトーシス、細胞生存シグナル、相同組換え修復、非相同組換え修復、p53関連、DNA複製ライセンス化、細胞周期などのマーカーを加え、幅広くシングルセルの遺伝子発現情報を収集している。一方、Geminin-EYFPノックイン骨髄細胞に導入することを目的に、赤色蛍光をマーカーにしたレトロウイルスベクターを用いたGeminin高発現系、shRNAを用いたノックダウン系、またはGeminin発現変化系(Geminin-MERやGeminin-Tetoff)作成を試みた。しかし、赤色蛍光マーカーをいろいろ試したが、細胞毒性が問題となり、高発現を維持する赤色マーカーを持ったレトロウイルスシステムの作成は難航している。別のGeminin発現操作法として膜透過型リコンビナントGemininタンパク質の有用性に着目し、基礎実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
上記のごとく、自己複製中の造血幹細胞のプロスペクティブ同定法の開発については当初の予定よりも順調に進展した。一方、Geminin発現操作法の確立については、赤色蛍光を共発現するレトロウイルスベクター系は、赤色蛍光タンパク質の細胞毒性のため生細胞を維持することに困難性がでる可能性があることがわかった。また、シングルセル解析は、多様なマーカーを組み合わせて多面的な幹細胞の遺伝子発現の状態を捉えることができるようになってきた。
前年までの研究で確立された自己複製中の造血幹細胞のプロスペクティブ同定法を用いて分画された自己複製中の造血幹細胞と静止期にある造血幹細胞の遺伝子発現の違いを、シングルセルRT-PCR解析だけではなく、シングルセル次世代シーケンサー解析まで広げたいと考えている(予備実験を完了した。)。また、PDC (paired daughter cell) 解析などのより機能的な解析を行うことで造血幹細胞の増殖と分化を掛け分ける分子機構におけるGemininの役割を解明したい。Gemininの発現操作系に対しては、赤色蛍光を持ったレトロウイルスベクターだけではなく、膜透過型リコンビナントGemininタンパク質とその変異体を用いてGemininの発現や機能を精妙に制御できるようにしたい。膜透過型リコンビナントGemininタンパク質に関しては既に予備実験を完了した。さらに、以上の研究成果を用いて、「新規Geminin発現制御シグナル系を介した造血幹細胞の自己複製と分化を制御する分子機構の解析」と「ES/iPS細胞からの造血幹細胞の発生誘導法の開発」に取り組みたいと考えている。
研究代表者の異動のために遺伝子改変マウスを使用した実験が、所属大学では一時的にできなくなったため遅延が生じた。
マウスの移管もほぼ完了したので、遅れが生じた実験は、平成28年度中に完了する予定である。
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